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[ショートショート] 永久迷宮:ひと夏の人間離れ
夏休み…。
と言っても夏期講習の毎日だ。
その日、教室には女の子が一人だけ来ていた。
見たことがない子だった。電気も点けずに薄暗い教室に立っている。
その子のワンピースの袖から伸びている腕がやけに青白くて、そして異常に長いことに気がついてしまった。
片方の腕だけが床につきそうなくらい長い。
気がつかないふりをして教室に入るべきか迷っていると、女の子が急にこちらに向かって突進してきた。
とても人とは思えない速さだった。
女の子は机や椅子を薙ぎ倒して僕の方へ向かって来た。
僕は咄嗟に廊下に出て教室のドアをピシャリと閉めた。
女の子は内側から教室のドアをバンバン叩いた。
僕はずっと扉を押さえていた。
そのうちだれか来るだろうと思ったけれど、誰も来なかった。
女の子はずっと扉をバンバン叩き続けていた。
何時間も僕は扉を押さえた。
それでも誰も来てくれなかった。
何日も僕は扉を押さえ続けた。
何日も何日も。夏はずっと終わらなかった。
何年も何十年も何百年も、僕は夏の中で扉を押さえ続けた。
もう何故扉を押さえているのかもわからなくなった。
自分が何者かもわからなくなった。
それでも僕はずっと扉を押さえ続けていた。
(487文字)
たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。