夏のおわり 下
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第二章: 移ろいと気づき
日が短くなり、秋が本格的に訪れた頃、瑠璃は老人の言葉に込められた真意を理解し始めた。老人が和菓子を楽しむその姿に、どこか哀愁が漂っていたのだ。
ある日、老人がいつものように店を訪れた際、瑠璃は思い切って尋ねてみた。「最近、何かお変わりはありませんか?」老人は一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに静かに微笑んだ。
「若い人には、わからないかもしれないが、歳をとると、季節の移ろいが心に響くんだ。特に夏の終わりには、何かを失ったような気持ちになることがある。」
瑠璃はその言葉を聞いて、初めて老人が言っていた「味が変わった」という言葉の意味を理解した。それは単なる味覚の問題ではなく、時間の流れとともに失われるもの、そしてそれに対する無言の悲しみだったのだ。
その日の帰り道、瑠璃は市場で見かけた鮮やかな色彩が、どこか色褪せて見えるのに気づいた。夏の終わりに感じる寂しさと、老人の言葉がリンクし、彼女の胸に深く染み渡った。
それから、瑠璃は和菓子を作るとき、ただの「美味しさ」だけでなく、季節の移ろいや、それに伴う心の揺れ動きを意識するようになった。夏の終わりには、少し寂しさを含んだ甘さを。秋には、豊かな実りとともに、過去の名残を感じさせるような風味を。
そして、そんな瑠璃の気遣いと工夫は、店の常連客たちに伝わり始めた。彼女が作る和菓子は、単なる食べ物ではなく、季節の移ろいとともに、心に寄り添う何かを感じさせるものになっていった。
瑠璃は、老人が店に訪れるたびに、新しい季節の和菓子を手渡しながら、心の中でそっと祈るようになった。老人が、これからも変わらぬ季節の移ろいを楽しめるように。そして、その和菓子が、少しでも彼の心を慰めることができるようにと。
おわり
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よろつよ
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