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「花束みたいな時間」 上
1分小説
この物語は2章構成になっています!
第1章:光の花束
里田瑠璃は28歳、東京の片隅にある小さな和菓子屋で働いていた。時代が変わり、デジタルとバーチャルが主流になった未来でも、彼女の和菓子はアナログな温かみを持っていた。毎日、店頭に並べる練り切りや大福は、手作りの優しさを宿し、色彩の資格を活かして作る鮮やかな色合いが評判だった。
しかし、瑠璃には一つだけ胸に引っかかることがあった。それは「時間」の感覚だ。世界では、最先端の技術「クロノフラワー」が流行し、人々は自分の大切な思い出を光の花束として保存することができるようになっていた。それは、瞬時に過去の出来事や感情を呼び覚ます、まさに「時間を操る」技術。多くの人々がクロノフラワーを手に入れ、失われた時間をもう一度手繰り寄せていた。
ある日、瑠璃のもとに一人の青年がやってきた。彼はクロノフラワーを扱う技術者で、かつて和菓子屋の常連だった。「あの花束を見せたいんだ」と言いながら、彼は瑠璃に一つの小さな花束を差し出した。それはクロノフラワーで、光が微かに揺らめいていた。
「これは何?」と瑠璃は尋ねた。
「君との思い出さ。昔、毎日ここに通って、君の和菓子を食べたことが忘れられなくてね」と彼は笑った。
瑠璃は言葉を失った。彼の手の中にある光の花束は、確かに彼が感じた記憶や感情を詰め込んだもので、その輝きがまるで過去の瞬間を封じ込めたかのように見えた。だが、彼女にはその「光の記憶」がただ虚しく感じられた。記憶を残すことは美しいが、今この瞬間を生きることこそが本当の価値だと、瑠璃はいつも思っていた。
「この花束、きれいだけど……私には少し重いわ」と瑠璃はそっと返した。「和菓子って、食べてすぐなくなるからいいんだと思うの。記憶よりも、今を大切にしたいの」
彼は驚いた顔をしたが、その後静かに笑った。
「君らしいな。じゃあ、また明日ここに来るよ。今度は和菓子を食べにね」
彼はそう言って立ち去った。残された瑠璃は、自分の店に戻り、今日も変わらぬように和菓子を作り続けた。しかし、彼女の心には微かな違和感が残っていた。それは、クロノフラワーが示す「時間」の意味。記憶を保存することの本当の価値を、彼女はまだ見いだせていなかった。
つづく
#未来の記憶 #和菓子の儚さ #クロノフラワー #今を生きる #花束みたいな時間
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よろつよ
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