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ぼくに映画が撮れたなら(詩)

友達のAくんは、両目をつむってスキップしてた。
たいして面白くなかったけれど、両目つむってスキップしてた。
夕暮れにドクドク迫りくる重い球が憂鬱で、
ぶつかりながらスキップしてた。

ぼくに映画が撮れたなら、
うるさいばかりの足元に深い亀裂をぱっと入れ、きみを落っことすことができたのに。

次の日のAくんは、小さい子を突き飛ばして笑ってた。
膝小僧すりむいて泣いている子を軽く小突いて笑ってた。
夕暮れにドクドク込み上げる重い球がこわくて、叫ぶように笑ってた。

ぼくに映画が撮れたなら、
それが言葉にきこえる前に甲高いバイオリンの悲鳴を被せ、きみを黙らせることができたのに。

幾日か後のAくんは、土塊を掴んで黙って投げてた。
善悪がゆらめく水面に、黙ってひたすら土塊投げてた。
夕暮れにドクドク増えていく重い球に耐えきれず、もうやけくそに投げつけた。

ぼくに映画が撮れたなら、
丸めたその背に夕陽を背負わせ、きみを燃やしてやれたのに。

いつだったかAくんは、うそみたいに静かに泣いた。
夜闇の裾をたぐりよせ、細い目を見開いたまま、静かに泣いた。
夕暮れにドクドク溢れていく重い球を道端に落としながら、静かに嗚咽をのみこんだ。

ぼくに映画が撮れたなら、
フィルムを千切って踏みにじり、無かったことにできたのに。
なんにも、無かったことにできたのに。

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