娘(詩)
私が「娘」という名をもらってから
ずいぶん月日が経ちました
せいぜい玄関と勝手口くらいしかなかった家にいくつも出口がみえるようになりました
私は夜な夜な味噌汁鍋を覗き込み
お母さん、
あなたがつくり続ける安らぎに容易い気持ちで抱かれたり
夜な夜な書架に並ぶ手垢に触れて
お父さん、
あなたの思いの断片を探してまわったりもしましたが
ある時から
まるで蟻が仲間の尻を追って命の仕事をするように
私はどこかに進みはじめたのです
脆い道にもかかわらず
ただ前だけをみているのです
もしも月明かりに浮かび上がった私が
ふと知らない女の顔をしていても
赦してください
それは
いつかあなたたちが出会うほかない女の顔です
その女は
いずれその女として
きっとあなたたちを再び愛するのだから
いまはただ 赦してください
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