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ちびカラスのブギウギ(詩)


ちびカラスが孵ったのは3月9日あたりのことで
母さんカラスは疲れていたので 
ちょっと世話してすぐ追い出した

ちびカラスは車をよけて 人をよけ 
犬をよけて 鳩たちをよけ
いつも隅っこで餌をさがした

ちびカラスはカラスに襲われ 
細い脚に大怪我負って
雀に突かれ 片目がつぶれた

それからはいつも妙ちくりんな足の運びで
餌を求めてクチバシ揺らし
バランス崩して左にトトト
風になびいて右にもトトト

それを見ていた孤独な老女は 
十年ぶりにたのしくなって
萎れた唇を緩めて笑い 
笑うついでに体をゆすった

通りかかった憂鬱な若者は 
いぶかしげに老女を見たあと
故郷のばあばに電話をかけて 
少し泣いて 元気をだした

離れたベンチの初老の男は 
若者を眺めているうちに
昔亡くした坊やを思い出し 
心がざわざわと 温かく波を立てた

ちびカラスはばさばさ飛び立ち
うるさい午後の街の上 
ぶきっちょなりにツーっと飛んだ

ちびカラスのブギウギダンスは
今日も誰かを笑わせる
ちびカラスのブギウギダンスが
胸から胸へと風吹かす
ちびカラスは徳を積んだことも知らず
辛いブギウギ明日もおどる

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