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雲中モノレールは月に向かって(詩)

心臓に虫がいることを隠して
ビー玉のような瞳をした子がいる

その子は心臓の薬をもらうため
毎週 月に通っているけれど
いつも置いてきた子猫が
ミルク皿をひっくり返してお腹を空かせている気がするので
何度も立ち止まる

心臓の虫はそんなとき暴れる
やさしい色の瞳がくるくる揺れる

遥か続く有料道路は空中を
花ひらく屋上を越えてゆくけれど
部屋で待つ痩せた子猫が
一枚しかない毛布をやぶって寒さに震えている気がするので
何度も振り返る

心臓に虫がいることも忘れて
透き通った瞳はやがて涙に溶ける

すると星屑をこぼしたような湖畔から
深緑が伸びて 迫り
美しい瞳を貫いて砕き
頭の中は子猫の鳴き声であふれかえり
子猫の背中は見る間に細り
さいごの短い鳴き声が静寂を被ったとき
その子の唇が「あっ」とちいさく弾けた

しかし雲中モノレールは止まりはしない
先のみえないレールの上を
今 また今 また再び今 進む
帰らなければならない子を乗せて
ときに大きく揺れながら
ずんずん高くのぼっていく

心臓に虫がいることを隠して
ビー玉のような瞳をした子がいる

薬が無いと死んでしまうが
子猫の死は それ以上におそろしかった

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