アメリカ人留学生、秋田へ。
大学のカフェテリアに食事に行く。
不安そうな顔をした欧米人がいた。
『ああ、今日AIUに来たばかりで知人もおらず、不安なんだな』と私は察した。
今日は新入生・留学生受け入れの日だ。あらゆる地域から来た人たちが知人もいない中に入り込んで混ざり合う日。
新学期のカフェテリアは特別だ。友だちになりたての人と話したり、一人で不安そうな顔をしたり、見知らぬ隣人に話しかけたりして、ここでみんな交流を深めていく。
先学期とは違う空気をまとった寮を通り、カフェテリアに入った私は思わず涙が出そうになった。
『寮のロビーで様々な国の人と毎晩夜中まで話したな。』
『はじめて来た日は馴染めるか不安だったな。』
と、3年前の今日を思い出していた。私は正直友だちを作るのがうまくはない。自然と友だちになっていくスタイルの方が自分に合っている。
でも、全国海外から集まって交流が活発なこの大学では活発に交流しなければいけない。そんなプレッシャーがあり、自分から話しかけるような人間ではないのにもかかわらず、いろいろな人に話しかけ、交流が広まっていった。
『人見知りをせずに友だちを作っていくのがAIUらしいね』なんて周りは言っていた。
とは言っても、時間が経つと前ほど交流をしなくなっていったのだけれど、どのようなふるまいも個性として認める空気がAIUにはあるような気がする。
◇
入学してすぐの頃を思い出す。
不安だった日。
オリエンテーションで『授業がはじまるとめちゃくちゃ忙しいぞ』と先生に脅され、実際にめちゃくちゃ忙しくて苦しんだ日々。
プレゼンの完成度が低すぎると泣いた日。
口述のテストでみんなの前でボロを出しまくって恥をかきまくった日。
自分の課題の質が低くてクラスメートにボロカスに言われた日。
失敗の方が多かった。
恥ばかりかいた。
でも、それはきっと自分の中に溜まっているのかもしれない。なんて思った。
そんなことを思い出すと、今の苦しみも乗り越えられるような気がした(あくまで気がするだけ)。
◇
不安そうな顔をした欧米人がどこから来たのかという関心がとめられず、思わず声をかけた。
“Where are you from?”
どこから来たの?
“U.S.”
アメリカだよ。
こんな不安そうな顔をしたアメリカ人は見たことがない。
「はじめて海外にきて、とっても緊張しているんだ」と彼は言った。
「そうだよねー」と私は共感した。
『あれ?でも、マレーシアに留学したとき、ぜんぜん緊張しなかったわ!』と私は気がついた。
実際に友だちを作らなければいけないプレッシャーは若干あったものの、無理やり友だちを作るものでもない、”自然体!“ と思い、自然と生まれた交流を大事にするスタイルにしようと心に決めた。私は孤独でも平気な人間だから。
こちらが意図せずとも、自然と知人や友人はできていった。
大学が運営してくれた空港から大学のバスまでの道のりで、日本人、中国人の知人ができた。
中国人は私の荷物を運ぶのを手伝ってもくれた。中国人とのエピソードはかなり多いのだが、本当に中国人は優しい。日本人も優しいけれども、気遣いの仕方がちょっと違う。
渡航前に知人と森ビルでお酒を飲み、ステーキを食べてマレーシアに渡った私は、到着時にはかなり疲弊して、大学の寮で寝ていた。
2人のルームメイトはすでに到着していたようだった。もうすでに3人ものルームメイトとの共同生活をしてきた経験を持つ私は、初対面でも緊張することはなく、ただ彼女たちが部屋に戻ってくるのを待つだけであった。
2人とも中国人だ。
留学というのはとてもめんどうな手続きがある上に、異文化で混乱したりもするのだが、この中国人2人は何故か手続きのすべてを把握していたようで、テキパキと私を導いていく。
というわけで、私の留学開始時は、2人の中国人が操作する列車に乗っているだけであったのだ。
マレーシアならではのトラブルは毎日!発生したが、このような感じで、自然と知人友人ができ、物事が運んでいった部分もある。
だから、今日自分の大学で出会ったアメリカ人もきっと自然と知人友人ができ、馴染んでいくのだろう。
◇
彼は驚いたことをいろいろと話してくれた。
自動販売機がたくさんあること。
そして、カフェテリアに5つもあること。
コンビニやカフェテリアの人に「ありがとうございます。」とお互いに言い合うこと。
日本はカラフルだということ。
どういう意味かというと、食事などがカラフルらしい。
米国ではカラフルだと子供じみていると思われるが、文化の違いだねと二人で笑って言い合った。
◇
成田から電車を乗り換え、新幹線で秋田まで来たようだ。
「大変じゃなかった?」と聞くと、大変ではあり、ローカルの電車は特に大変だった、でも、英語のアナウンスがあるから大丈夫さ!と言っていたので、外国人でも移動できる日本になれているようで良かったなと、少しほっとした。
◇
「日本語を勉強したい!」
「アニメが好き!」と、彼は言った。
日本人として自信を失うこともあったが、日本を選んで、そして楽しんでくれる人がいるのを知り、失いつつあった自信を取り戻しつつあった。
“Enjoy AIU!” (AIUを楽しんで!)
と言って、彼と別れた。
「きっと楽しいと思う」と彼は笑顔で言った。
(終わり)
◇
私は最近あまり英語を話していないことや、100%英語を理解できないという負い目から、私は英語に対して苦手意識がある。
AIUは英語で授業をするから「英語ができる」と思っている人も多いだろうが、むしろ英語で授業を受け、留学しているからこそ、自分たちの英語はネイティブには敵わないということをよく思い知らせる。
授業がはじまって英語が出てくるかな?なんて不安があったけれど、いざルームメイトが到着し、カフェテリアで隣人に話しかけると、自分が不安に思っているほどのコミュニケーションの壁はなかった。
ただ、米国人の話は若干わからない部分もあったが、そこはテキトーに話し、大事なところは聞き直して確認するという作業もこの3年で培われた?能力?なのかもしれない。
“Enjoy AIU!” (AIUを楽しんで!)
と言って、彼と別れた。
「きっと楽しいと思う」と言ってくれたことが、日本人として嬉しかった。