夢とフォーカシング ―からだによる夢解釈ー
夢分析というと、夢の中に出たきた題材について、まるで辞書を引くかのように「象徴解釈」するものであるというイメージが、多くの方には強いのではないかと思う。
本書で示された夢へのアプローチは、そうしたありがちな夢分析の本とは全く性質が異なる。原著のタイトルに、"Let Your Body Interpret Your Dreams"(あなたの身体に夢を解釈してもらう)とあるがごとく、16の質問を用いて、夢を見た本人が自分の身体に実感に問いかけていく中から、思いもよらない洞察にたどり着くことができる。その展開は、夢について専門的に知識がある専門家の予想能力を超えた、たいへんにダイナミックな形となることが多い。
つまり、夢をみた人を相手にする「専門家」の側の方が、夢についての詳しい知識を持っているという既成概念を、ものの見事に打ち破る。
そこには、著者ジェンドリンが開発した「フォーカシング」技法のエッセンスが生かされているのであるが、実際に活用してみると、フォーカシングの学習暦が全くない人においても、非常に安全度が高く、怖い思いも苦しい思いもせずに、むしろスリリングでユーモラスでありながらも、人生のペーソスをしみじみ味わえる、貴重な体験の場を提供できる。
ジェンドリンは、この技法の中で、ユング派の夢分析やゲシュタルト療法からもヒントを得ており、夢と関わるためのツールとしての「統合性」において、独自の存在意味を持つものだと思えてならない。
そこで尊重されるのは、ロジャーズのパーソン・センタード・アプローチに共通する、夢の理解をしていく主体はあくまでも夢を見た本人であり、夢フォーカシングのトレーナーは、あくまでも控えめで何かのヒントになる「提案」を試みる存在であるに過ぎない(その提案がピンと来なければ夢を見た本人はそれを活用しなくていい)という関係性である。
すでに述べたように、この技法は、わずか16項目の「質問(提案)」項目に、「バイアス・コントロール」と呼ばれる、夢を見た人当人が自分の夢を日常をとらえるのと同じ認知様式で「自動思考」して済ませてしまうに留まらないための、控えめな介入の仕方という非常にシンプルなものにまとめられている。
16項目の質問をすべて手使いこなせる必要などない。普段使いとしては、自分の肌になじむいくつかの質問を、夢をまだ覚えている起き抜けに試みてみるだけでも、ただ自分なりに夢を回想して意味づけるだけの場合とは全く異次元の夢理解と心身の解放が生じることに驚かれるかもしれない。
悪夢に思われた夢ですら、大抵の場合、思わず自分でも苦笑するような、人生のウィットに富んだ予想外の気づきに結びつくことが多いのである。
本邦訳の難点を敢えて述べれば、原著と構成の順序が入れ替えられたことが果たしてほんとうに明快さに貢献したのかどうかいう思いは個人的にはある。
更に言えば、付録Aの「理論編」の翻訳が、何か原著を完全に消化していないとも感じさせられる生硬さがあるのが残念である。
星1つの減点はそのせいであるに過ぎないと思って欲しい。
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お、私自身、「入門フォーカシング」の中で、夢フォーカシングの技法について解説させていただいております。
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私自身、夢を見るたびに夢フォーシングするのは完全に日常の一部となっております。このnoteでもマガジンとして報告しておりますので、興味をお持ちの方はご覧ください。