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ブランドの行き先を問うSTP分析

STP分析とは、
Segmentation(セグメンテーション)
Targeting(ターゲティング)
Positioning(ポジショニング)
の3つの工程からなるフィリップ・コトラーが提唱した
マーケティングのフレームワークです。

STP分析を通じて、市場や顧客の状況を把握し、ブランドをどの方向で調整してゆくべきかを明確にします。

幅広いターゲットに対して同じような製品を提供する、無差別型マーケティングは、よほどの資金力のある企業でも通用する領域はないのでは無いのではないでしょうか。食のブランディングを構築してゆく上では、ほとんどの場合、差別化や集中型のマーケティングが必要になります。

①価値が評価され商売が成り立つ市場がどこなのか?
②「美味しいもの」を提供する相手が誰なのか?
③はずせない価値は何なのか?
を順をおって解明してゆくことによって、

ブレないブランディングが可能になるのです。

では、よろしくお願いいたします。

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はじめに

STP分析は、ロジカルに構築されたポジショニング戦略です。まず全体の状況を俯瞰し、その中でブランドの立ち位置を明確にしてゆくプロセスです。

そのため、チームや社内での共通認識を持ち、意思決定がしやすいメリットがあります。企画、マーケ、広報、営業などの部署が、同じ考えのもとで活動することに結びつきます。

分析をする際には、社内全体の意思として通用する、データや言語化を意識して作業を進めると、より効果的にブランディングを進めるベースとなるはずです。

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ポイントはKPIを明確にすること

事業のKPIは、目標とする売上金額や利益、顧客の見込み数など数値化できるものを集めましょう。この利益を達成するためには、どのセグメントを狙うべきか、といった検討のベースにすることで、議論がスムーズになるからです。

STP分析を設定する理由は、ブランドの目的を達成するためだからです。

たとえば、セグメンテーションやターゲティングの過程でどれくらいの規模感を狙えるのかを検討する際、数字という指標があれば意思決定がスムーズになります。そうすることで、会社全体での認識のずれを無くし、共感されるインナーブランディングが可能になります。

数字があると、安心できるんですね…。


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STPのプロセス例

それでは、実際のプロセス例にそってみてゆきましょう。

■全体の構成


まずは、大きな3ステップの流れから説明します。
まず、狙うべき市場(S)を明確にしてこそ、初期段階での設計・開発を効率的に進められます。既存市場なのか、新規市場なのか、まず仮説をたて設定するところからがスタートです。

①Segmentation(セグメンテーション)
市場を何らかの数値基準でグループに細分化する

②Targeting(ターゲティング)
細分化された市場で狙うべきターゲットを定める

③Positioning(ポジショニング)
市場での立ち位置・方向を定める


■Segmentation(セグメンテーション)

市場を何らかの数値基準でグループに細分化する。

わかりやすく2つに分割してますが
実際は調査データなどの項目数から整理・分析してゆきます。

この段階では、市場を異なるセグメントに分けます。セグメントは、共通の特性やニーズを持つ顧客グループです。たとえば、食品関連では、属性の年齢、性別、年収、学歴、職業、行動パターン、などを思いつかれるもしれませんが、実は多くの切り口があるので下記に示します。



・ デモグラフィック(人口統計的変数)
デモグラフィックとは、年齢・性別・家族構成・学歴・職歴など、人々の基本的な情報を基にした指標です。統計調査などを基に判断します。
まずは、人口動態の把握はマストですのでそこから始めてもよいかもしれません。(今後の課題が満載です…)
一般的なデモグラフィックの例です。

  1. 年齢:人々の年齢は、異なる世代や年齢層を特定するための重要なデモグラフィック変数です。例えば、ベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれ)とミレニアル世代(1981年から1996年生まれ)は異なるニーズや嗜好を持っている可能性があります。

  2. 性別:男性と女性の性別は、消費者行動や社会的な傾向を理解するために使用されます。性別によって、製品やサービスのターゲット市場を調整することがあります。

  3. 家族構成:結婚しているか、子供がいるか、単身者か、世帯の構成は、生活様式や支出パターンに影響を与えます。

  4. 学歴:教育レベルや資格は、職業や所得水準に影響を与えることがあります。高学歴の人々は、一般的に高い賃金の職に就く可能性が高いです。

  5. 職歴:職業や職歴は、収入、専門知識、スキルセットに関する情報を提供します。

・ ジオグラフィック(地理的変数)
ジオグラフィックとは、国・市町村・気候・文化・宗教など、地理的要因に絡む情報を基にしたセグメント指標です。地図や国の調査結果などを基に判断します。一般的なジオグラフィックの例です。

  1. 国・地域:人々の地理的な居住地に基づいてセグメンテーションを行います。異なる国や地域には異なる文化、法的要件、消費者嗜好が存在するため、インバウンド対応などで重要になります。

  2. 市町村:国内市場の詳細なセグメンテーションを行う際に、市町村単位での情報が有用です。地理的に近接した地域でも食文化ががらっと変わる場合があるのでチェックする必要があります。

  3. 気候:気候条件は製品の需要に影響を与えることがあります。例えば、季節性の高い農作物などのマーケティングの場合、需要予測の必要があります。

  4. 文化:異なる文化や言語を持つ地域では、文化的な違いに合わせたマーケティング戦略が必要です。言語、習慣、価値観などが影響を与えます。

  5. 宗教:宗教的な要因は歳時関連など市場で影響力を持つことがあります。

・サイコグラフィック(心理的変数)
サイコグラフィックとは、個人の心理や感情に基づく情報を使用して市場セグメンテーションを行うための指標です。これには、価値観、性格、ライフスタイル、購買行動の動機、趣味、嗜好などの定性データが含まれます。以下は、一般的なサイコグラフィックの例です。

  1. 価値観:個人の価値観は、彼らの行動や選択に大きな影響を与えます。例えば、環境に対する意識が高い人々は、環境にやさしい製品を選ぶ可能性が高いです。

  2. 性格:個人の性格特性によって、彼らの好みや行動が異なります。外向的な人々と内向的な人々は、製品やサービスに対する異なる需要を持つことがあります。

  3. ライフスタイル:生活様式や日常の活動に関する情報は、市場セグメンテーションに役立ちます。例えば、アウトドアを好む人々と、都市のエンターテイメントを好む人々は異なる市場セグメントを形成する可能性があります。

  4. 購入動機:製品やサービスを購入する際の動機や目的は、市場戦略を調整する上で重要です。価格、品質、ブランド忠誠心などが購買決定に影響を与えます。

  5. 趣味と嗜好:趣味や嗜好は、特定の製品やサービスに対する関心を示します。たとえば、音楽、スポーツ、美術、食事の好みなどが考慮されます。

・ ビヘイビアル(行動変数)
ビヘイビアルとは、個人の実際の行動に焦点を当てた情報を使用して市場セグメンテーションを行うための指標です。これには、買い物の頻度、製品やサービスの購入パターン、購買のタイミング、使用方法、ブランドへの忠誠心などが含まれます。以下は、一般的なビヘイビアルの例です。

  1. 買い物の頻度:顧客が特定の製品やサービスをどれだけ頻繁に購入するかは、需要の安定性やリピート購買の可能性に影響を与えます。

  2. 購入のタイミング:製品やサービスの購入タイミングは、季節やイベントに合わせたマーケティングキャンペーンの計画に役立ちます。たとえば、クリスマスやバレンタインデーに購買が増加することがあります。

  3. 購買パターン:顧客の購入パターンを分析することで、特定のアイテムやカテゴリーへの関心を特定し、それに応じたプロモーションを提供できます。

  4. 使用方法:製品やサービスの使用方法や用途は、広告戦略や製品改善に影響を与えます。顧客が製品をどのように使用して価値を得ているかを理解することが重要です。

  5. ブランドへの忠誠心:顧客の忠誠心やリピート購買率は、ブランドの成功に重要な役割を果たします。顧客を長期間維持し、競合他社からの奪取を防ぐために戦略的なアプローチが必要になります。

多くありすぎて迷われてしまうかもしれません、市場を分ける方法は多くありますが、必ずしもすべてが有効だとは限りません。売りにつながる接点がどこに隠れているかを仮説立てして取り組んでください。

上記のセグメンテーション例は単独で使うものでなく、複数のセグメンテーションを組み合わせて使うことがデフォルトです。

たとえば、ブランドの特性を鑑みて、年代でセグメントすべきか?価値観的なものでセグメントすべきか?数値データを分析し利益を出すための規模感があるセグメントになっているかどうか、というのがここでの大きなポイントになります。


■Targeting(ターゲティング)

セグメンテーションの後、特定のセグメントを選択し、優先順位をつけます。これにより、リソースを最適化し、特定の顧客層に焦点を当てることが可能になります。

たとえば、ある特定のブランドが、調査の結果40歳代の女性で健康的な食習慣を求めている人がボリュームゾーンである。そのセグメントが優先順位が1番目のターゲットとすることができます。

次に2位、3位とセグメントに順位をつけてゆきます。この選択は、セグメントのサイズ、成長ポテンシャル、収益見込、競合状況などに基づいて判断してください。

たとえば、30歳女性、50歳女性が次ぎのボリュームゾーンだとして、ターゲット数は減るがプレミアム商品の導入が可能なセグメントか、ターゲット数が稼げるが価格を安く設定しなければいけないセグメントか、によって、順位づけが変わってきます。


優れたセグメントは、事業目標やブランデイングと整合性があることが理想です。目先の利益だけでなく、長期的な成長プロセスの中で判断してゆく場合もあり、判断の選択肢が多くなることもあります。

さらに、プロジェクトによっては、ここでペルソナを設定してみるのも効果的です。ターゲットとペルソナの関係が明確になり整理がしやすくなる場合もあります。

それを、次のポジショニングに落とし込んでゆきます。
競合との関係の中で優位性をどこにみいだすかがポイントになります。

 

■Positioning(ポジショニング)


ポジショニングは、選択したターゲットセグメントに向けて、自社ブランドと競合との違いを落とし込んだポジショニングマップを作成します。

①ここでは、軸の取り方がポイントになります。軸にどのようなワードを使うかによって結果はおおきく変わってきます。現状を分析するためのワードではなく、顧客がブランドに求めるニーズで軸にとることで、自社の方向性が明確になります。

〈軸の例〉
価格重視:品質追求
効率性:信頼性
デザイン性:機能性
伝統:モダン
カジュアル:フォーマル
エリア対応:一般的な市場
ミレニアル:ベビーブーマー
カスタマーサービスの充実度:低価格提供の追求度

②次にセグメントで出てきた方向性の仮説をポジショニングマップに落とし込みます。
例:
優先順位1位のA案
現行の商品のリニューアル。
セグメントで分析されたB方向へ拡大する。
優先順位2位のB案
現行の商品から方向をシフトさせる。
競合がいるが差別化をすることが可能。
優先順位3位のC案
現行の商品から方向をシフトさせる。
市場は小さいがブランドの強みを打ち出すことが可能。



③最後にマップ上の各ポイントに、各ブランドの名前やその領域のキーワードを表すためにラベル付けします。各ポイントの位置が何を示しているのかを説明するために言語化しておくことも重要です。

こうして軸をとり配置してみることで
ブランドをどうシフトしていくべきか?が明確になり、マーケティングしてゆくことが可能になるのです。

実際には、ブルーオーシャンの領域を見つけることは、非常に困難です。なぜなら、多くの市場が既に競争にさらされており、イノベーションを追求し、新たな鮮度あるブランドが生まれにくくなっている現状があります。

しかし、既存市場のレッドオーシャンの中で、リスクを下げるために他社との激しい競争は避けたいものです。価格競争に陥らないように、狭い集中型のマーケティングを効果的に行い、差別化を徹底してゆくことが重要になってきています。

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だれに、どんな価値を届けるか


マーケティングの極意とは、どのような顧客(WHO)に、どのような価値・体験(WHAT)を届けるかだ!と、このような発言を何度も聴いてきました。私もその通りと考えています。

STP分析をやってみると、マーケターと呼ばれる人たちは直観的にWHOとWHATをみい出しているのではなく。実際は、その裏でこのような分析の蓄積があることがうかがい知れます。

①WHO(誰に): 顧客セグメントを正確に特定し、誰に対して製品・サービスを提供するのかを理解する。これには、顧客の特性、欲求、ニーズ、購買動機などを考慮すること。ターゲット市場を認識し、顧客をより具体的にペルソナで定義している。

②WHAT(何を): 顧客への提供価値や体験を明確にする。これには、製品・サービスの特徴、ベネフィット、ユニークポイント、ブランドメッセージなどが含まれています。顧客が何を期待し、何を価値と感じるのかを把握し、それにマッチした価値提供が行われている。

マーケティングは、顧客を理解し、隠れた欲求やニーズに対応する価値提供することに焦点を当てたプロセスです。WHOに対してWHATを提供するかを明確にし、効果的に伝えることで、顧客の共感をまねき、ブランドの成長を実現できます。究極。WHOとWHATだけでOK!なのかもしれませんね…。


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まとめ

使い古された手法…と感じられる方も多いかもしれませんが、マーケティングのフレームワークを丁寧に活用することで、ブランド価値を高め、ブランドをブレないものとして調整してゆくことが可能になります。「消齢化」などの現象もあらわになる中でどのようなデータを軸に分析してゆくかがポイントになってきます。

ブランディングを展開してゆく時に、経験知や勘どころも大切ですが、あらためてマーケティング視点で分析してゆくことで、焦点を定めた提供価値に磨きをかけることが可能になります。

STP分析を通じて、市場と顧客を深く理解して、ブランディング戦略の最適化に取り組まれてはいかがでしょうか?


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分析の伴走役などもやっております。

ぜひ、お声がけくださいませ。


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