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心を落ち着ける、2021年冬のダウンテンポ/アンビエント・ミュージック(感想)

忙しなくて気分が落ち着かず、気持ちの昂りがちな年末にこそ、心を落ち着けられるチルアウトを。
以下、この1年以内にリリースされた、ダウンテンポ/アンビエント・ミュージックを中心にした作品の感想などを。

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Safe Passage/Frits Wentink & Erik Madigan Heck

オランダのレーベル、Dekmantelから2021年2月リリース。サイケデリックな雰囲気のあるアンビエントまたはダブミュージック。

やはりオランダのレーベル、Will & Ink and Bobby Donnyを主催するFrits Wentinkが、写真家のErik Madigan Heckの写真を音楽的に解釈するためにはじめたプロジェクト。制作中にErikの母親が亡くなったことが作品に大きく影響を与えており、喪失感や来世への希望を感じさせて、宗教音楽のような厳かさがある。

詩の朗読には女優のTilda Swintonが参加しており、配信版にはMatthew Herbertのリミックスも収録されている。私としては、「Safe Passage (BvDub’s Breathless Haunts - Crush of Air” Mix)」の、幅の広い川で大量の水が流れているように深い音の響きが心に刺さった。

カバー写真からだけではその魅力が伝わりづらいが、Erik Madigan HeckのInstagramへ投稿されている写真には、ヴィヴィドな色合いの写実的な作品と印象派絵画のように輪郭のボヤけた写真が並べられていて、非現実的な世界へ誘うような、まさしく本作のような音楽との相性が良いと思う。


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Collected Pieces:2015-2020/Mary Lattimore

米・ノースカロライナ州出身のハープ奏者Mary Lattimoreによるコンピレーションは2021年10月リリース。(CD/レコードは2022年2月下旬リリース予定)
カセットテープで2017年にリリースされた『Collected Pieces』と、2020年リリースの『Collected Pieces II』から何曲か追加/入れ替えされた作品となる。

見た目のゴツい、47弦Lyon & Healyハープの音色に空間系のエフェクトをかけて紡ぎ出される幻想的な旋律によって陶酔感を味わえる。

Mary Lattimoreは、これまでにThurston Moore、Sharon Van Etten、Meg Baird、Julia Holter、Jarvis Cocker、Kurt Vile、Steve Gunn、Ed Askewなど様々なアーティストの録音やライヴのサポートをこなしてきたとのこと。
場数を踏んでいるだけに、想像していたハープ演奏とは異なる音づくりがかなりユニークなアンビエント・ミュージックで、電子音では味わえない儚い音の粒の質感がクセになる。


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Heisei No Oto - Japanese Left-Field Pop From the CD Age, 1989-1996

2021年3月リリースのこのアルバムは邦楽コンピレーションだけれども、レーベルはアムステルダムのMusic From Memoryより。

年号でいうと平成。その前半にCDで発売された楽曲を、レフトフィールドな視点で選曲された作品となる。私のイメージではこの頃のJ-Popってブックオフで叩き売りされているような印象だったのだが、このアルバムによって認識が改められた。
このようなコンピレーションに求められるのは、選曲のセンスがすべてとなるが、不思議と2021年の耳によく馴み、眠りの浅い夜などにまどろみながら明け方近く、このアルバムを聴いていると前向きな気分に。

シンセサウンドによる独特の浮遊感が漂う曲が多く、耳に優しい音色を楽しめる。
アレンジに細野晴臣が参加し、”話くらいキャラメルをカミカミPi Po Pa”と、どんな状況で電話しているのか? と歌詞で惑わせてくる、井上陽水の「Pi Po Pa」が聴きごたえある。
また古い時代の邦楽のため音圧を心配したが、リマスタリングされているせいか音圧が低くて聴きづらいということもないのも嬉しい。


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Kerber/Yann Tiersen

フランスの作曲家Yann Tiersenによる、2021年8月リリース作品で、レーベルはMuteから。
この人の作品は、映画『アメリ(2001年)』のサントラくらいしか知らなかったのだが、本作の印象はそれとはかなり異なっており、アメリのようなシャレた音楽を想像すると、違う方向性の音楽となっている。
レーベルがMuteで、無機質なカバーデザインから電子音が主体のエレクトロニカを想像したが、意外にも生音主体でピアノの音色が多用されており、シンプルに仕上がった音楽は洗練されている。

Yann Tiersenが住むフランスのウェサン島にあるホーム・スタジオで制作・録音された作品で、島の小さな村にある礼拝堂にちなみ『Kerber』と名付けられたとのことで、それぞれのトラックはYann Tiersenの家を取り囲む風景が音で表現されている。
ピアノと浮遊感のあるシンセサウンドの響く「Ker Yegu」がお気に入りでリピートしたくなる。

https://intmusic.net/?s=Neil+Cowley+シングル・カットされた「Ker al Loch」にはPVもあって、無機質な3DCGの物体が音楽に合わせて漂っている。
はっきり言って暗い曲が多いのだが、心に沁みてくる優しさと静けさがあって夜中に聴こうものなら確実に寝落ちできる。


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Parks At Night/Teis Ortved

デンマーク、コペンハーゲン出身の17歳Teis Ortvedのアルバムは2021年6月リリース。レーベルはドイツのBathurstから。

ピアノやサックスがJazzっぽいがリズムはダウンテンポで、こもった音色と適度な音の重ね方も相俟ってセンスの良さが光る作品。品のいいラウンジ・ミュージックのようで聴きやすい。
Teis Ortvedは、17歳ながら、ベース、ギター、サックス、ピアノ、ドラム、パーカッションをひとりでこなすマルチプレイヤーで、ヴァイオリンにクレジットされているThera Ortvedは名字が同じのため、おそらく兄妹と思われる。


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Notes Of Longing/Matteo Myderwyk

オランダ出身のピアニスト、Matteo Myderwykによるデビューアルバムは2021年10月リリース。
ピアニストだが、MoogRoland Juno-60などのアナログシンセサイザーによるパッドサウンドと合わせることで音に厚みのある曲もあったり。

アルバムのテーマは「憧れ」とのこと。
憧れの対象が何なのか、過去/未来の自分、または他人に対してなど。そういうことを想像しながら聴いてみる。


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For Us Alone/Alaskan Tapes

カナダのトロントを拠点にするプロジェクトAlaskan Tapesによるアルバムはヴァイオリンとチェロを多用したアンビエント・ミュージック。少しくぐもって丸みのある音が特徴的

2021年の4月リリースで、気分が落ち気味なときに深夜に独りで聴きたくなるような、ゆったりしていてとても穏やかな音楽。
セルフレーベルからのリリースのせいか、ほとんどWebに情報を見つけられなかったのだが本作でアルバムリリースは6枚目とのこと。
過去のInstagram投稿をみるとカセットMTRを使用している。DAWを使用せずに手作り感覚で作曲しているのかもしれない。いずれにせよプリミティブな曲が多い。


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The Wind/Balmorhea

米テキサス州のユニット、Balmorheaのデビューアルバムはドイツのクラシック専門のレーベルDeutsche Grammophonから2021年5月リリース。

Balmorheaは、Rob LoweMichael A.によって2006年に結成されたユニット。
アンビエントというよりモダンクラシカルな音楽で、素朴な弦楽器の奏でる音は牧歌的でチルアウトできる。
Rob Loweは、13世紀に出版された西洋中世奇譚集成「皇帝の閑暇」を、「自分たちのつくった音楽と共鳴するメタファーと感じた」と言っている。タイトルの「The Wind」は閉塞感の漂う時代にあって、再生のために吹き込む新しい風なのか。
または、シンプルだが奥行きがあって内省的な音楽によって13世紀の人々が感じた恐れや謙虚さを表現しているのかもしれない。

本作は、Nils Frahmが理想の音響設備を整えるためにつくりあげたといわれるドイツの名門スタジオ、ファンクハウスでレコーディングされている。
このスタジオは東ドイツ時代に国営のラジオ放送局として設立された第3ホールをケーブル配線、電気系統、木造の加工、さらにコントロールルームでの新しい音響までカスタムされているとのこと。
さらに、共同プロデューサーのJonathan Lowは、Taylor Swift『Folklore』でエンジニアとして参加している人。生音の響きが美しいのにはちゃんと理由があった。

最近のJ-Popなんかと比較してしまうと、とても音圧の低い作品だが私には耳が疲れなくてこれくらいが丁度よい。


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Old Friends New Friends/Nils Frahm

ドイツ/ベルリンを拠点に活動するピアニスト、Nils Frahmによる2021年12月リリース。
トータル1時間19分くらいあるため、通しで集中して聴くことは無いが、最近は何聴くか迷ったらコレばかり。

隙間だらけで最小限に響いているピアノの音を、美しい音響で聴かせてくれて気持ちいい。じっくり聴いても素敵なフレーズが耳に届くし、BGMに聴き流しても邪魔にならない作品というのは意外に貴重。

Nils Frahmは昨年もライブアルバムをリリースし、8月にもピアノ作品『Graz』をリリースしていて、リリース間隔が短いから追いかけるのが大変。


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Reimagined/Henrik Lindstrand

スウェーデン出身のアーティストHenrik Lindstrandの曲を、8人のアーティストによってリワークされたアルバムのリリースは2021の年9月。

悲しげな曲もあるのだが、全体の印象としてはポジティブな仕上がり。遊び心もありながらも整然としていて、カバーデザインから想像される通り、少しだけ楽しげな音が奏でられている。
跳ねるように軽快な音がリズムを刻むエレクトロニカ「Vaggvisa (Reimagined by Tom Adams)」が特にお気に入り。ループするストリングスの音色で再構築された「Søndermarken (Reimagined by Anne Müller)」も好き。


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An Afternoon Whine/Claire Rousay & More Eaze

2021年7月に5曲入りのリリースは、Ecstaticレーベルよりテキサスを拠点に活動する女性二人組のユニットによる音のコラージュ作品。

ヴォーカル、ギター、電子音、ピアノ、バイオリンやフィールドレコーディングされた環境音、または加工された声など。様々な音が溶け合い心地よく響くエレクトロニカになっている。
ビートがほとんどなく、あまり規則性がなく音がコーラージュされているため、音楽としては実験的だけれども、不思議と難解さはないのは、音色選びのセンスがよいからこそ。


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The Color of Nothing (Reprise)/ford.

2020年にリリースされた、ford.による『The Color of Nothing』のリミックスおよび新曲が収録された作品は2021年の5月リリース。

気怠さを漂わせた優しいダウンテンポ作品となっている。
郷愁を誘うようなこもったピアノの音と、ゆるいビートに包み込まれる「Thursday Drive」が美しい。優しい音をつくる時の初期Aphex Twinを思い起こさせる。
科学の図鑑に掲載されていそうな、淡いイラストカバーも素敵。


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Hall of Mirrors/Neil Cowley

Adele、Birdy、古いところではThe Brand New Heaviesなどにも参加していた90年代から活躍しているイギリスのピアニスト/キーボーディスト、Neil Cowleyによるアルバムは2021年3月のリリース。

緩やかでアタックの弱いシンセサウンドが静かに響く淡いサウンドが多く、穏やかなリズムパターンにのせた「Circulation」のメロディーが美しくてついリピートしてしまう。
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改めて2021年のダウンテンポ/アンビエント・ミュージックを振り返って思うのは、こういうジャンルの音楽は音の数が少ないからこそ、選択されている音色や音響バランスに優れた作品が聴き応えがあるということ。
とはいえ、耳に刺激を与えるようなノイズは好みではないのでそういう作品は選ばなかった。



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