見出し画像

ヤング≒アダルト(映画)感想_愛すべき自己中心女、身近にいると思う

2011年作品。監督のジェイソン・ライトマンは『JUNO/ジュノ(2007年)』の人。以下感想などを(ネタバレ含む)

STORY
メイビス・ゲイリーは自称作家のゴーストライター。執筆中のヤングアダルト(少女向け)シリーズは人気が落ちて終了間近。そんな彼女のもとに、高校時代の元恋人バディとその妻ベスに赤ちゃんが生まれたとの知らせが。数年前に離婚して以来、自由気ままに暮らすも何だかうまくいかない毎日に嫌気がさしたメイビスは、バディとヨリを戻しかつての輝きを取り戻そうとするが……。

画像1

都会で荒んだ生活を送るアラフォー女

高層マンションの散らかった一室。ベランダにはペットのポメラニアン(名前はドルチェ)用のドッグフードの空き容器が並ぶ。寝起きに2Lのコーラへ直接口をつけて飲み、,歯を磨きながらヌーブラを外す。前日までのメイクが顔に残っており生気のない肌が痛々しい。

元カレ(バディ)からのメールを印刷しようとするもプリンタがインク切れ。どうするのかと思いきやインクケースへ唾液を垂らして振るというズボラさ。それでも都会で暮らす自分にプライドを持っているので、友人とマックのコーヒーを啜りながら、地元で子供を育てながら退屈な仕事をしているであろう元カレを"人質のよう"とこきおろす。
メイビスの言動には人を見下す人間特有の必死さが感じられ、バツイチ37歳の独身女性がミネアポリスという都会でゴーストライターを続けることの疲れが垣間見える。

画像2

バディとのヨリを戻しに帰郷するも、実家へは帰らない

微妙に会話の合わない男とのディナー後、朝目覚めるとメイビスの身体の上にはその男の腕の重みが。ペットのドルチェや着替えを鞄へ詰め込み、カセットテープ(Mad love, buddyと書かれている)を持って薄汚れた赤いMINIへ乗り込む。車を停めて、おもむろにカセットをカーステに入れて音楽スタート(ここでタイトルコール)。Bandwagonesque(1991年)の1曲目、懐かしい!

故郷へ着いたメイビスは実家へ帰らずにモーテルへ。バディへ不動産の仕事で地元へ立ち寄ったから飲みに行こうと嘘の留守電を入れてから地元のバーへ行く。
このバーで、小太りで足の不自由な学生時代の同級生マットに出会う。このマットに対して「バディとヨリを戻すために帰郷した」と宣言するわけだが、メイビスからなぜヨリを戻そうと思ったのかまでは語られない。後にバディの良さを聞かれて「優しいから」と答えるシーンがあるがそれきりだ。

画像3

メイビスがなぜ、ヨリを戻せると自信満々に故郷へ戻ってきたのかを少し想像してみる。
連載中の小説は打ち切りが決まり、日々充実しているように見えて仕事に追われ、疲れていたから魔が差しただけなのかもしれない。
しかし、それにしたって子供の産まれたばかりで幸せいっぱいの男とヨリを戻せると思う考え方は異常だ。
日本では「産後クライシス」なんて言葉の通り、出産後が離婚の危機であるのは確かだがメイビスがそこまで計算高く「今こそチャンス」と行動しているとも思えない。
上から目線で自分勝手なメイビスのことなので、「所帯じみた奥さんよりも自分の方が魅力的だから」くらいの過剰な自信があってのことなのだと思う。ましてやバディの奥さんのベスは学生時代に自分よりも下に見ていた女性と思われるので尚更だ。

この現状認識の甘さから、かつてのスクールカーストは既に存在していないことに気付けないメイビスの"痛さ"が見ていて辛くなるわけだが、メイビスはいたって自分の気持ちに正直に、自然に振る舞って生きているだけなのだ。そうして他人への配慮が足りない。

こういうメイビスの態度は他人の目線ばかり気にして生きている自分からすると、なんと羨ましい考え方なのだろうとも思ってしまう。

画像4

ヨリを戻して、その後どうするつもりだったのか

出産祝いパーティでバディと二人きりになり、一緒にやり直そうと迫るメイビスを冷たくあしらうバディ。(映画を観ている側からすると、バディの回答が想像出来ていただけに辛い)そうしてヤケになったメイビスは酒を煽ることになるのだが、もしもバディがメイビスの誘いにノッた場合どうなるのか。

まず産まれたの赤ん坊をどうするのか。バディとベスからすると37歳にもなって産まれた高齢出産での初めての子どもである。これは二人にとって待望の我が子であったことが想像されるのでバディが手放すことは想像し難い。たとえバディが子ども連れて故郷を捨てたとしてもメイビスのズボラな性格からして他人の子どもを育てられるわけがない。
結局のことろメイビスは自分の都合でしか物事を考えていない。ティーンの頃は、その美しさによって周囲の男がチヤホヤしてくれるので何でも思い通りになった成功体験がありその延長でしか考えられていないのだ。

画像5

酒に酔ったメイビスはベスにぶつかり自分の服へワインを零されたことで、ついに感情を爆発させてしまう「なぜ自分を招待したのか」と。
また、流産した過去を話しながら本来であればこのパーティは自分が開催するべきであったのだと激昂しベスへ「私はあなたが憎い」とまで告げる。
この場でメイビスを招待しようと言ったのはバディではなくベスであったことが判明するわけだが、その理由が「君がかわいそうだから電話をした」だ。これはメイビスにとってはキツイ。自分よりも下だと思っていた相手から、上から目線で同情されるのだ。
さらに、メイビスは去り際、さも自分のことを追いかけてきて欲しそうに「あなたのために戻った」とバディへ告白する。

画像6

冷静に考えると、故郷が嫌になって都会へ行き価値観や生活スタイルの違うバツイチのメイビスをパーティへ呼んだとしても、メイビスとベスがお互いに混ざり合えないことは分かり切っていたことだ。(メイビスはパーティでも一人だけ外見からして浮いている)ましてや学生時代から女王気取りでプライドの高いメイビスが地元の皆と馴れ合うなんてことは想像が出来ない。そういう意味では「幸せな自分を見せびらかしたかっただけなのでは」とベスの性格の悪さを勘ぐってしまう。

画像7

プライドが高い自分には都会が合っていると選択するメイビス

毎晩のように酒へ付き合わせて暴言まで吐いていた相手に関わらず、結局はマットのところへ泣きつき慰めてもらうことになるもメイビスは立ち直れない。そうして翌朝マットの妹のサンドラへ「幸せが見つからない。他の人は見つけられているのに」と弱気なことを言う。

しかし、サンドラからの励ましはこうだ。
「ここにいる人間はデブでバカ。あなただけが本を書き、その格好で歩ける。あなたは美しい上に有名人。特別な人。」と。
褒められてすっかり気を取り直すメイビス。

そのサンドラから「私もミネアポリスへ連れて行って欲しい」とお願いされるも「ここにいるのよ、サンドラ」と返すメイビス。(この町の人って、つまらない暮らしに満足してる。と直前に見下していたにも関わらずだ)
サラリと酷いセリフを言えるまで復活したメイビス。そうして、小説を書き上げてミネアポリスへと帰っていく。

画像8

愛すべきメイビスのキャラクター

とにかくメイビスのスクールカースト頂点からの転落ぶりが激しい。ストレスがかかると髪の毛を抜く癖があるために円形のハゲがあるのが痛々しいし、ヨレたHello KittyのTシャツや片付けられていない部屋からもダラしなさが見て取れる。近所に買い物に行く時はスッピンで髪は適当。極めつけはマットへ泣きつくシーンでドレスを脱ぐと垂れた胸にヌーブラの情けない姿を晒すのが特に象徴的だ。
そんなメイビスだが、バディへ会いに行く時はネイル、マッサージ、化粧、ウィッグと念入りにやることで見違えたような美しさになるから女は本当に変わる。(シャーリーズ・セロンという素材もあるが)
この映画の日本版コピーは「あなたはワタシを笑えない」だが、身に覚えのある女性はメイビスに共感出来るところもあり"痛い女"と突き放せない。むしろベスのような取り繕って生きている女性こそ同性からは疎まれるのかもしれない。

田舎に残って平凡な暮らしをする人からすると、都会で夢を与える側の人は華やかに見える。しかしその華やかさの裏には、自分の創り出したものが認められなくても挫けない精神的なタフさが必要だ。つまり田舎に残った人とは覚悟が違う。だからこそメイビスのすべてを否定してはいけないと思う。
性格は最悪だし、社会性もなくアル中だが、そんな状況でも歯を食いしばって仕事に向き合える強さがあるからこそ、生み出されるクリエイティブというのもあるのだ。「自分は美人でクリエイティブな仕事のできる頭の良い女」そう自分で思い込み直して故郷を去る。
壊れたMINIを無表情で眺めるメイビス。薄汚れて前面は大破しているが、まだ走れるしミネアポリスまで辿り着くことも出来る。メイビスの生き様そのものを投影しているかのような美しさがある名シーンだ。

画像10

---------------------------------------------------

画像9

バディへ会いに行くメイビスがMINIの中で音楽をかける(2011年の映画なのにカセットテープ!)とTeenage Fanclubの『The Concept』がかかる。グラスゴー出身のギター・ポップバンドで、当時はグランジやシューゲイザーなんてのも流行っており、自分もこの盤はよく聴いた。
しかもメイビスはこの曲の冒頭部分を3回はかける。(しつこくて笑ってしまった)
芯のしっかりしたギター・ポップでイントロは元気の出る曲調だが、間奏パートでコーラスの入る旋律はどこか物悲しくてこの映画の展開に不思議と合っているな、と選曲に意外性が合って良かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?