春に向けて気分を盛り上げていく音楽(2022年)
大寒を迎えたばかりで、まだまだ寒さの厳しい日の続く日々を乗り切るために、気分を盛り上げてくれる音楽を。
盛り上げるとはいえゴリゴリだったり、イケイケアッパーな感じではなく、あまり下世話にならない選曲で、なおかつこの1年以内にリリースされた作品を中心に選択した感想などを。
Bills & Aches & Blues (40 Years of 4AD)
イギリス、インディ・シーンの名門4ADによる40年の歴史から、カバーコンピレーションが2021年7月にリリース。現在4ADに所属する18組のアーティストたちがレーベルの名曲をカヴァーしている。
コンピタイトルはCocteau Twins「Cherry-Coloured Funk」冒頭の歌詞の引用らしいがCocteau Twinsのカバーは未収録。
あまり馴染みのないレーベルのためオリジナル曲をほとんど知らなかったのだがそれでも問題無かった。
ジャンルはダウンテンポ、インディーロックとなるが楽曲のバリエーションが幅広く退廃的でドライ、プリミティブなのが心地よい。
その中でもTune-Yardsによって、野太いベースラインと緩急のある展開に頭が悪くなりそうな「Cannonball」(The Breeders)がサイコー。
存在感のあるシンセのフレーズにのせて辿々しく歌われるTkay Maidzaによるダウンテンポ「Where Is My Mind? 」(Pixies)も好き。
Small Talk/Soda Blonde
ダブリン出身の4人組、Soda Blondeによるデビュー・アルバムは2021年7月のリリース。
アレンジが大げさなせいか、はっきりいって音楽としてはあまり洗練されていないと思う。しかしメランコリックなメロディーの質の高いポップスなのは確かで、憂いのある歌い方をするFaye O’Rourke’のヴォーカルがクセになる。
ストリーミングサービスなどによって聴ける音楽の選択肢が増えたせいで、自分が何を聴きたいのか迷って思考停止することがある。
そういう時、迷った末にとりあえずこのアルバムを選択すると不思議と気分が良くなり、ストリングスの響きが美しい「Darkness」からはじまる12曲を通して聴くことがあった。
虚ろな目をした母親がポットの液体をテーブルにこぼしているカバー写真も気になる。
A La French (1987-1992) The Balearic Sessions Vol. 3/Dimitri From Paris
フランスを代表するベテランハウスプロデューサー、Dimitri From Parisによる初期のリミックス・ワークがリマスタリングされ、2021年5月に4曲入りでVol.1~3の3種類がFavorite Recordingsからリリース。
グルーブ感のあるハウスのリズムに、芯の太い女性ヴォーカルが力強く歌い上げる「Donne-Moi Du Feu (Summer Nights Disco Mix + Bonus Dub Extension)」が最高!
この曲9分以上の尺があるのだけども、高いところへ連れて行ってくれそうな多幸感があって、いつまでも聴いていたいと思わせてくれる。
残念ながらSpotifyでこの曲は配信されていないのでリンクはYouTubeのを貼っておいた。
Disclosure/DJ-Kicks
K7レーベルによるDJ-Kicksシリーズから、UKの兄弟ユニットDisclosureによる2021年の11月リリースはDJミックスになっている。
ジャンルは、Deep HouseまたはDeep Techと括られるようなミニマルなトラックが多いのだが選曲、曲順が素晴らしいのは当然として、抑圧されたサウンドからは洗練されたセンスの良さを感じさせる。
アンビエントなPépe「Recollection (Mixed)」で幕開け、込み上げるように盛り上げていき、ラストArfa x Joeによる「Recognise」では、美しいドラムン・ベースで締めくくられているため余韻も素晴らしい。
存在感のあるシンセベースがうねるDisclosureの新曲「Observer Effect」もかっこいい。
Quivering In Time/Eris Drew
シカゴ出身のDJ/プロデューサーのEris Drewによるデビュー・アルバムは2021年の10月リリース。
パートナーのOctoOctaとニューハンプシャーの田舎へ移住して、スタジオの窓から見える森を見ながら制作したとのこと。
しかしそんなオーガニックなエピソードから想像される印象はアルバム全体に無く、かなりアッパーなハウスまたはプログレッシブ・ハウスとなっている。全9曲で展開が単調ではない無いため、リスニングにも耐えられる。
特に気になったのは『これはひょっとしてダサいのではないか』とも思うほど印象的なフレーズで、鉄琴っぽい音が鳴り響く「Pick 'Em Up」の破壊力がすごい。差し込まれる加工された早口のヴォーカルもアッパーな雰囲気を盛り上げてくれる。
Get Up Sequences Part One/The Go! Team
UK出身のアーティスト、The Go! Teamの6枚目のアルバムは2021年7月のリリース。
ポップで楽しげな曲調と、グルーヴ感満載で勢いのある楽曲はいつも通りクオリティが高いしメロディーが素敵。
のっけから「Let the Seasons Work」でかなり強引にポジティブな気持ちに誘ってくれる。
エレクトロ、ロック、ヒップホップ、ファンクなど、様々なジャンルを呑み込んだカラフルな音が膨大な情報量で押し寄せてきて落ち着きがなく、密度も濃い。
Song From Another Life/The Boys With The Perpetual Nervousness
スペインのBobo Integralレーベルからリリースされた2ndアルバムは2021年2月のリリースでジャンルはパワーポップ、またはインディー・ロック。
スコットランドのギタリストAndrew Taylorと、スペインのドラマーGonzalo Marcosによるユニットで、ユニット名はFeeliesから拝借しているとのこと。
人懐っこい印象の男性ヴォーカル、甘いメロディーとどこか懐かしいギターサウンドは、Teenage Fanclubが好きならオススメ。全10曲でトータル27分にも満たないポップスはストリーミングサービス時代ならでは。
青いワニが微笑んでいるイラストも微笑ましくて好印象。
Towako's Diary - from "大豆田とわ子と三人の元夫"
2021年4月に放映されていたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のサントラは、坂東祐大と様々なゲストによるアルバムで2021年6月のリリース。
ラスト「All The Same」の評判が良いけど、私としてはドラマ冒頭にかかっていた「#まめ夫 序曲 〜「大豆田とわ子と三人の元夫」 with Ensemble FOVE, Banksia Trio」が聴きたくて何度もリピートしている。元気のある曲調と、性急でドラマチックな展開は陽気な気分にさせてくれる。
近い雰囲気の曲だとTPO「Sundog」を思い出す。
コメディ・ドラマのサントラだけに全体的にユーモアたっぷりで、軽快なジャズっぽい曲やサンバのノリなど、バラエティ感があって飽きさせないのも良い。
カバー写真の勾玉のようでシルエットの可愛らしい石は、石で寿司を作っている人の作品らしい。
Loco Remezclada/A Certain Ratio
1977年結成、マンチェスター出身でFactoryレーベルにも所属していたバンド、A Certain Ratio。
2020年にリリースされた『ACR Loco』とEP『ACR:EPA』のリミックスを収録したアルバムが2021年11月にリリースのレーベルはMuteから。
このバンドの曲って、モロにインディーズロックって感じがするのだけども、リミックスされていい感じにサウンドに変化があり、適度にポップで聴きやすくなっている。
ボコーダーで加工された声が特徴的なエレクトロでファンク色の濃い「Bouncy Bouncy (Chop & Drop Lonelady Mix)」がオススメ。
シンセのアルペジオが心地よくてアンセム感のある「Always In Love (Skream Remix)」も好き。
The Negative Positive/Dego
4Hero、Tek 9 などの名義でも活躍し、ハズレの少ない高い品質の楽曲をリリースし続けるDennis McFarlaneによるDego名義による2021年の5月にリリース作品は、ソウル、ブロークンビーツ作品になっている。
グルーヴ感のあるドライなリズムと透明感のあるヴォーカルの「What's Good for You (feat. Obebewa)」が好き。
1曲目「Stained with the Tears on Their Faces」がジャングルっぽさのあるブロークンビーツなのが意外だったが、全9曲アルバムトータルの完成度も高くて信頼を裏切らない、日が落ちてからの時間帯に聴きたい音楽。
Substellar/Lemaitre
エレクトロ・ポップサウンドが特徴的な2021年11月リリースのアルバム。
Lemaitreは、Ketil JansenとUlrik Denizou Lundのノルウェー2人組のユニットで11年以上活動しているがリリース作品は少なそう。なにしろマイナーなレーベルのせいかWebで拾える情報が少なくて色々と不明。
シングル・カットされた「Reflection」のミドルテンポで過剰なシンセサウンドと真っ当に歌い上げるバランス感覚が妙に心地よい。ポップなエレクトロ・サウンドはかつてのRinôçérôseやTribecaが近いか。
Private Reasons/Bruno Pernadas
ポルトガル、リスボン生まれのアーティスト、Bruno Pernadasによるアルバムは2021年4月のリリース。
エキゾチック、さらにサイケでアイデア満載のポップスは、メロディーも美しく玄人っぽさを感じる。
シングルカットされた「Theme Vision」は、もったりしたリズムと懐かしさを感じさせる歌によるポップソングかと思いきやが、途中からアジアっぽい奇妙なシンセサウンドが鳴り出して遠くへ連れて行かれたと思ったら、急に元へ戻ったりと可笑しいのだが確信的。
全編そんな感じでどこか楽しげ。色んな音が鳴り響いて先の展開が読めいのが独特。
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