2023年総括。心を落ち着けるダウンテンポ/アンビエント・ミュージック(感想)
身体の凍えるような冬にこそ、心を落ち着けられるチルアウトを。
以下、この1年以内にリリースされた、ダウンテンポ/アンビエント・ミュージックを中心に印象的だった作品の感想などを。
Before I Saw the Sea/Me and My Friends
UKブリストルの5人組によるデビューアルバムは2023年1月のリリースで、レーベルはSplit Shiftより。
気怠いアフロビート、フォーク、ソウルなどがブレンドされたイチオシの1枚。「You Came Into My Life」のように、するっと心に隙間に入り込んでくる感じとか最高に好き。
主張し過ぎないこもったドラムが淡々とビートを刻み、女性の低音ヴォーカルとの組み合わせが安らぎを与えてくれ、チェロやアコギの音色にはどこか懐かしい印象もある。
霞がかったようにまったりとした楽曲は歳を重ねた大人こそ楽しめる音楽ではなかろうか。
Canto Ostinato/Erik Hall
米ミシガンの音楽家による4枚目のアルバムは2023年8月のリリースで、レーベルはWestern Vinylから。
とても実験的な9曲で、ほとんど展開の無いピアノのループとなるミニマルな楽曲。そのため曲名も「Sections 1-16」など味気ないもの。
62年製のハモンドM-101オルガン、78年製のローズ マーク I 、そして1910年製のスタインウェイ・グランドピアノの3台で演奏しているとのこと。
聴き分けられるほどリピートしてはいないけれども音の響きはどれも柔らかい。
頭がおかしくなるほど同じフレーズを繰り返す心地よさは、テクノ・ミュージックが好きな人にオススメ。踊れないけどテクノのような陶酔感がある。瞑想するのに良いかもしれないのと、よく眠れそう。
Songs of Silence/Vince Clarke
2023年11月にリリースされたErasureのVince Clarke(63歳)によるソロはインストを中心にしたアンビエント・ミュージック。レーベルはMuteから。
数多のヒット・ソングを生み出してきたVince Clarkだが、ポップさを期待する音楽ではない。
各トラックで使用されるのは単一のキーとなり、モジュラーシンセのユーロラックによってつくり出されたとされる音色からは深い悲しみが感じられ、どれも暗いが荘厳で美しい。
当たりの柔らかい音の印象は、内省的だった『Erasure』(1995年)に近くて
明け方に大きめの音で聴いていると、精神が自分の身体から離脱していくような感覚になれる。
Blue Voices/Anagrams
米ジョージア州で活動するJD WalshとJeff CromptonによるユニットAnagramsによるアルバムは2023年11月のリリース。レーベルはBALMAT。
アルトサックス、テナーサックス、クラリネット、ギターなど様々な生楽器によって奏でられる音はジャズっぽくもあるけど、全体の印象としてはアンビエント・ミュージックっぽい。
いい感じに肩の力の抜けていて、他人に優しくなれるようなポジティブな気気分にさせてくれる。
Ten As One/Matthias Vogt
ドイツのDJ・プロデューサーそしてジャズピアニストであるMatthias Vogtのアルバムは2023年8月のリリースで、レーベルはReflectionsから。
各曲ごとに様々なアーティストとコラボレーションをしており、エスニックな雰囲気もある。ジャンルとしてはエレクトロニカまたは、アンビエント・ミュージックとされるもので、夢遊病状態のようにゆったりとしたシンセサウンドが心地よい。
時間が止まったかのような緊張感のあるバランスのカバーデザインも含めて、センスの良さを感じる1枚。
11月にはEditされた曲など、14曲が追加されたDeluxe盤もリリースされている。
Goodbye, Hotel Arkada/Mary Lattimore
米・ノースカロライナ州出身で、LAを拠点に活動するハープ奏者Mary Lattimoreによる6曲は2023年10月のリリース。レーベルはGhostly Internationalから。なお、日本盤のCDにはボーナス・トラックが追加されている。
タイトルの「Hotel Arkada」とは、クロアチアのフヴァル島にある古いホテルのことらしい。
時代と共に変化していく喪失感を表現したのか、エモーショナルで哀しみをたたえた音楽が疲弊した心に寄り添ってくれる。
PitchforkのJemima Skalaは「5歳のバースデーケーキの味を瞬時に思い出させるような弦の弾き方をする不思議な能力を持っている」と表現していて、何だかよく分からないけど懐かしさや、幼い頃への憧憬に似た感情は伝わってくる。
No Fixed Point In Space/Modern Nature
UKブラックプール出身、Jack CooperのユニットModern Natureによる3rdアルバムは2023年9月のリリース。レーベルはBella Unionから。
ジャンルとしてはフォークになると思うのだけど、たどたどしいギターは少しサイケっぽくもあり、即興的で抽象的な音による素朴なサウンドにチル・アウトできる。
実験的だけど難解ではなく、生演奏による音の揺らぎや響きが心地よくてよく眠れそう。
Klangland/Henrik Lindstrand
デンマークのバンドKashmirでも活動する、Henrik Lindstrandによる4枚目のソロアルバムは2023年3月のリリースでレーベルはOne Little Independentから。
ピアノを中心にしているが、「Leva」「CPH-ARN」などでは穏やかなストリングスと絡めて美しいピアノの音色を聴かせてくれる。聴き流しているとほとんど引っかかりの無い楽曲だが、音の隙間が静かに心に染み入ってくるような音楽。チル・アウトするのに最適。
Better Lucky Than Beautiful/Bingo Club
パリを拠点にしているバンドによるデビュー・アルバムは、2023年2月のリリースでレーベルはFuzo Music Companyから。このバンド写真を見る限り3人組っぽい。
ヴォーカルがこもったようなヌケの悪い音で聞き取りづらく楽器として溶け込んだかのよう。リバーブのきいたギターなどの音の揺らぎと合わさってドリーミーなダウンテンポに仕上がっている。
いい感じに肩の力が抜けており魅惑的だけど、全体の印象としてはポジティブ。
Copenhagen 2023, Vol. 1
情報がほとんどヒットしなくて詳細は不明なのだけど、恐らくデンマークのプロデューサーKenneth Bager選曲によるコンピレーション。2023年6月のリリースでレーベルはMusic for Dreams。
11月にはvol.2もリリースされている。
ジャンルとしてはダウンテンポやトリップ・ホップが中心でディープ・ハウスっぽいのも。
Barbate「Saúco」、Santino Surfers「Turtle Dance」などは浜辺で波でも眺めながら聴きたい気怠いダウンテンポ。
全体的にとにかく音の響きがバレアリックで、外でリラックスするときに聴きたくなるような音楽。
だから、どぎつい配色で混沌としたカバーデザインのイメージが音楽と合っていないと思うのだが、どうしてこうなったのか。
とりあえず、今年一年もいろんなチルアウトできる音楽を聴いてきたけど、やっぱり外でイヤホンでもって、音楽に街の音が混ざったを聴くのが好きかも。