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恋×シンアイ彼女(感想)_大人の事情とラブコメに翻弄される稀有なゲーム

『恋×シンアイ彼女』はUs:trackより2015年10月30日に発売されたADVゲームで、シナリオに新島夕が携わっている。
作品紹介のあらすじやパッケージからは王道のラブコメが想像されるののだが、本作ではメインのヒロインが、他に類をみないような人生の選択をする展開となっているのが珍しい作品となっている。
以下、メインヒロイン姫野星奏のストーリーについてのネタバレを含む感想などを。なお、本作における他ヒロインの扱いは、本筋からはほとんど添え物と言っても良い内容と思うので、ほぼ触れない。

<story>
國見洸太郎は、御影ヶ丘学園に通う2年生。文芸部で小説家になることを夢見ながら、活動をしていた。彼にはどうしても書けないお話がある。
「恋愛小説」
それは彼が幼い頃に経験した、がっかりな初恋のエピソードのせいらしいのだけど…。
新しい春。
『桜代学園』、『西学園』そして洸太郎が通う『御影ヶ丘学園』3つの学園が統合され、新たな出会いが始まる。
幼い頃に出会い恋をして離れ離れになっていた姫野星奏。数年前まで親友だったが、あることをきっかけに口をきかなくなった、新堂彩音。
そして恋愛小説が書けない國見洸太郎。

そんな3人は、なにかの偶然か、教室でも3人隣り合わせで急接近することに。何も変わらない日常に、恋愛小説のようなお話が舞い込んでくる。

本作は、國見洸太郎と姫野星奏のエピソードを中心に、「少年期(小学校高学年)」、「御影ヶ丘学園の2年生」、「社会人(24~27歳)」と3つの時期にエピソードが分かれている。少年期のエピソードは物語の途中に挟み込まれる進行となるが、状況を整理しやすいように少年期から時系列に順を追っていく。

少年期、手紙への返事をしない姫野星奏

病弱で文才のあることを鼻に掛けた洸太郎はクラスでは浮いた存在だった。そこへ転校生として姫野星奏がやってくる。しかし星奏もまたクラスメイトに馴染めずに一人音楽プレイヤーを聴いているような少女だった。
しかし、クラスメイトに意地悪で奪われた星奏の音楽プレイヤーを洸太郎が取り返したことをきっかけに、似たような境遇の二人はやがて親密な関係になっていく。

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星奏には小学生ながら作曲の才能があり、洸太郎に自作曲をアピールする手紙を書いてもらってコンペに応募することになる。
応募テープは音楽プロデューサーの目に止まり北海道のガールズバンド(グロリアスデイズ)の作曲担当として抜擢されることになる。

それに伴って転校することになった星奏へ、洸太郎は中編小説のような長文のラブレターを渡す。
星奏は文章が苦手なので、返事を書こうとバンドのリーダー吉村へ相談するも「そんなものは捨てて、音楽のことだけ考えるよう」と厳しく突っ返される。バンドはデビュー前のナーバスになっている時期で、まだ子供であった吉村も星奏へきつくあたってしまったのだ。

このあたりの事情は大人になってから吉村自身によって語られる話しで、洸太郎との再会後にも星奏自身の口からは一切語られることはない。
なぜ、星奏はなぜ洸太郎に説明をしなかったのか。
星奏の性格からすると、吉村のせいにして言い訳をしたくなかったのもあるが、洸太郎が何年もラブレターの返事にこだわり続けているとは思わなかったというのが本当のところだろう。
しかし、洸太郎からすると返事を保留にされたことで宙ぶらりんにされ、返事に拘り続けた洸太郎は「自分の恋愛感がおかしいのでは」と臆病になり、恋愛小説が書けなくなってしまい、二人の間にはこの時点ですれ違いが起きている。

御影ヶ丘学園時代、理由を告げずに去る姫野星奏

グロリアスデイズの活動は世間一般に知られるようになるが、5年後に星奏はスランプに陥り作曲が出来なくなってしまう。そこで星奏は夏までという期限付きで、かつて住んでいた思い出の街へ帰ることにし、御影ヶ丘学園へ転校する。

星奏と洸太郎は再会し、やがて付き合うことになるのだが、昔つくった音楽の詰まった音楽プレイヤーを洸太郎に取り戻してもらったことをきっかけに、星奏はスランプを克服し作曲ができるようになる。
そうして約束の夏になると、”街に残る”か、”私たちかを選ぶのか”と強引に吉村に迫られた星奏はまたしても洸太郎の前から姿を消す。

これは洸太郎の立場からすると「星奏にとっては、自分よりも音楽の方が大事だった」ということなのかもしれないが、星奏が洸太郎のことを本当に好きだったことは二人の関係性から想像ができる。

どちらか一つを選択するよう吉村に圧をかけられて、星奏としは作曲家の道を選ばざるを得なかったというというのが本当のところだろう。

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洸太郎に対する星奏の態度に問題があるとすれば、以下3点を黙っていたことだ

・手紙の返事を出来なかった理由を伝えていない
・作曲家デビューしておりスランプに陥っていた
・夏までの期限付きで御影ヶ丘へ戻ってきた

しかし、抱えている悩みを洸太郎に打ち明けない星奏に問題はあるが、まだほんの高校生の洸太郎に相談したところでなにか前向きな回答は出てきただろうか。

グロリアスデイズとしての活動はもはや、星奏とバンドメンバーだけではなく多くの人間の関わるビジネスだ。
後に洸太郎が調査すると、音楽業界にいる大人たちによる少女たちへの搾取だったという描写もあるが、グロリアスデイズのメンバーと星奏は、普通に生活していたら手に入れられない成功を手にしているのも確かだ。

しかし二人が別れなければならなかったことに焦点を絞ると、上記のような大人の事情ともいうべき問題は、まだ学生である洸太郎には解決出来ないということなのだ。
何しろ、洸太郎は5年前に渡したラブレターの返事が無いことを未だに引きずるような言ってみればピュアな感受性の男だ。
星奏はすでに大人の世界にいて、洸太郎はあまりにも幼すぎた。そうして星奏の抱えている問題を解決できるような能力を洸太郎は備えていなかった。二人はそういう関係性だった。

ひょっとしたら、作曲活動をやめて洸太郎と星奏が一緒に人生を歩むという選択肢があったかもしれない。
しかしその場合、「星奏の作曲家としての道を自分のために諦めさせる」という事実が洸太郎にのしかかってくるので、これもハッピーエンドとはいえないだろう。恋人の将来が決まる決断を高校生の時点で背負い込むのは重たい。

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そうして星奏を失った洸太郎は、ただ落ち込むばかりではなく小説を書くことを決心することになるのだが、小説を書くきっかけが得られたと考ええれば、洸太郎にとっては悪いことばかりでもないと思う。
かつて海で星奏と約束したからというのもあるだろうが、星奏に会うために書くというのもいかにも洸太郎の純粋さが垣間見える。

結果的に3回、洸太郎を裏切る姫野星奏

洸太郎が社会人2年目を迎える頃、星奏は再度、御影ヶ丘の街へ帰ってくる。グロリアスデイズが解散し、またしても星奏の境遇が悪くなったからだ。

その頃、洸太郎は教師として御影ヶ丘学園、文芸部の顧問を務めているわけだが、一人の生徒として森野精華が登場する。精華は俳優の仕事を再開する都合で東京へ転校することが決まっている。しかしそこはビジネスの世界であるため、自由な自分をさらけ出せない辛さを洸太郎へ告白するわけだが、その姿はかつて御影ヶ丘学園で共に過ごした星奏の境遇と重なる。精華が季節外れの桜の咲く丘へ洸太郎を連れ出したのも、かつての星奏を仄めかしているのだろう。

洸太郎は星奏と街中で再会する。そして自分の辛さを話そうとしない星奏に対して、「なぜ本当のことを言ってくれないのか」と糾弾しながらも星奏を受け入れることになる。
洸太郎受け入れられたのは洸太郎の胸の内に精華とのやり取りから得た「星奏の境遇に共感する」気持ちが芽生えたからだろう。精華に辛さを告白してもらえたおかげで少女が大人の世界に混ざってビジネスをする苦労に気付きけたからだ。

最終章_08

しかし、グロリアスデイズのメンバーは事務所の負債の保証人になって多額の借金を抱えていることを知った星奏は、またしても洸太郎のもとを離れ音楽業界へ復帰しグロリアスデイズのメンバーたちの補償のために作曲活動を再開することになる。
星奏が洸太郎の元を去る前日、二人は夜の海へ行く。そこで星奏は再度「星の音がきこえた」と言うが、復帰後の曲が脚光を浴びることは無かったエピソードがあるので、この言葉はどこまでが本当だったか。

最初の2回の洸太郎との別れには、どこか吉村にプレッシャーをかけられてという空気があったが、今回は星奏自身が初めて自ら決断している。別れ際に自らの言葉で洸太郎へ手紙を残したのもそういうことだ。

星奏の立場から好意的に捉えるならば、一蓮托生と運命を過ごしてきたグロリアスデイズのメンバーがピンチに陥っているのに、自分だけが洸太郎と幸せな未来を築くなんてことは出来ない。
ましてや洸太郎にはさんざん利用してきた負い目があったので、敢えて別れたとも想像できる。つまり、星の音が聞こえていようがいまいが、かつての仲間のために駆けつける必要があったのではないか。も自分には良い曲を創る能力が無いことを分かっていながらも、バンドメンバーを救うためだけに音楽業界へ復帰したのかもしれない。

最終章_25

対照的なヒロインをプロットし、星奏には弁解をさせない

本作は洸太郎に対して感情移入しすぎると、星奏に対して悪い印象を持ってしまう理由がいくつかある。

まず、もう一人のヒロイン新堂彩音との描かれ方がまったく対照的なこと。星奏は幼馴染、ユルフワ系、天然キャラ とメインヒロインのお作法を踏襲しており、これだけ見るといわゆる美少女ゲームにありがちともいえるステレオタイプなヒロインだ。にも関わらず、結果的に洸太郎を三度裏切り自分の夢を優先させてきた。

対して彩音はデザイナーになりたいという夢を、御影ヶ丘学園への編入と同時に諦め、専門科ではなく洸太郎のいる普通科へ編入してきている。
言い方は悪いが、星奏は洸太郎を芸の肥やしに利用したとも言えるのに対して、彩音は将来の夢ではなく洸太郎との恋愛を選んだ。二人の選んだその後の人生の違いが、この配役によって星奏の選択のまずさが際立ってみえるように仕向けられており、なかなかにあざとい。

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また、星奏が重要な決断をしている際にモノローグを語らせるシーンがほぼ無いことも悪い印象を与える理由となっている。
なぜ洸太郎を裏切る結果になってしまったかということについては、洸太郎の推測または元グロリアスデイズの吉村から語られるのみで星奏本人による弁解がないのだ。

しかし、彩音の洸太郎を想うモノローグはふんだんにあるので、意図的に星奏の気持ちを説明不足にしていると考えられるのだが、これによって星奏に対してプレイヤーが悪い印象を持つように意図的に仕向けられているように感じた。
余談だが、星奏のモノローグが少ないことについて私は好意的に受け止めている。これは映画や漫画でもそうだが、心の声を全部セリフとして出されたらプレイヤーに想像する余地を残さず、後から作品の余韻に浸る楽しみが減ってしまうから。

最終的に、洸太郎と星奏は手放しで喜べるハッピーエンドとはならないのがこの手のゲームとしては珍しいと思うのだが、洸太郎は小説で、星奏は作曲するクリエイターだ。
誰かを感動させる小説家や作曲家がものづくりをする過程で、何も犠牲にせず誰も傷つけずに良いものをつくり出せるなんてのは嘘くさいし、成功や幸せにはなんらかの犠牲がつきものだ。
心の中に鬱屈したものがあるからこそアウトプットするのであって、誰かを感動させるなにかを生み出すのってそういうものだと思う。
こういう配役や展開はいわゆる美少女ゲームではあまり見られるものではないし、美少女ゲームの娯楽性を考えるとぬるま湯のような癒やしを求めるユーザーも一定数いると思うが、私個人としては予定調和な展開のゲームに飽きていることもあり良い作品に巡り会えた。

最終的に洸太郎が救われないという見方もあるが、洸太郎は星奏に振られるたびに精神的に成熟し、きちんと小説としてアウトプット出来ている。
また、星奏の置かれている境遇を想像しながら改めて少年期からプレイしてみると、下手な言い訳をせずに、周囲のために自分の気持ち押し込んで決断してきた女性として捉えると物語として美しい。
音楽や絵の美しさも相まって作品としてのクオリティは総じて高くかなり満足いく出来だった。


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