アインシュタインより愛を込めて(感想)_拗らせた主人公を好きになれるか
2020年10月30日発売のADVゲームでシナリオは新島夕。
最初は学園モノのラブコメだが、後半は徐々に壮大なテーマに変わっていく展開のため、人を選ぶシナリオになっていると思う。
また、全体でも15時間程度の長さとなっており、日常パートをダラダラと繰り返されるのが苦手な自分にとっては気軽にプレイ出来るのが良い。
以下、ネタバレを含む感想などを。
<story>
人の気持ちが分からない奴だと言われる
だけど人の気持ちなんて、誰に分かると言うのだろう?
夏のはじまり。北牧学園2年生。試験で毎回首位の愛内周太は、はじめてその座を明け渡す。
トップになったのは「有村ロミ」という、ネットで先鋭的な論文を発表し続ける、謎の少女だった。
そして周太はある相談をもちかける。
「愛内周太」「有村ロミ」
2人の天才の出会いをきっかけに、
はるかな夏の冒険が始まる。
愛内周太の愛すべきキャラへ、生暖く接してくれるヒロイン
本作の主人公愛内周太には友人が一人もおらず、プライドが高くていつも上から目線。頭脳に自信があるため行動する前に事前のシミュレーションをして、成功はもはや間違いなしとばかりに自信満々に論理展開するも机上の空論であるため大抵失敗する。
同じマンションに住む新田忍を自分の部屋へ招き入れた際も、「部屋に女性が来たらOKのサインと同義」というネット情報を鵜呑みにしてセックスを迫るも断られて逆ギレする始末。
理屈っぽくて残念がらコミュニケーション能力が低いと思われてしまう男なのだが根はいいヤツであり、裏表の無い性格のおかげか周囲からは生暖かい目で見られている。
また、短い余命を宣告された周太のアプローチには必死さがあり、それが伝わるからこそヒロインたちは周太へ協力をしてくれる。論理的な周太のアプローチにはノッてこないが、感情にほだされて徐々に周太へ好感を持ちはじめてくれる展開はよくできている。
普通であることを望むが、結局は手放すことを選択する坂下唯々菜
個別ルートでは坂下 唯々菜のシナリオがよく出来ていると思う。周太以外の人間が唯々菜のことを忘れていくという展開となるが、ある特定の人間の記憶・存在が周囲から消えていくという設定は「ONE 輝く季節へ(1998年)」など古い作品から既に存在するため目新しさはない。しかし、日常パートを必要以上に冗長にせず、あっさりと進行させているため使い古された展開もさほど気にならない。
また、周囲から認識されないなって孤立する唯々菜の理不尽な状況を共感してしてくれたり、記憶力の良さをアピールして安心させてくれたりと、周太の性格の良さが際立つシナリオとなっている。
世界の人々を救っているから「自分のことを忘れてくれ」と言う唯々菜に周太は「唯々菜自身は救われているのか」と問う。それに対して「救世主になんて、なりたくなかった」と回答している。
唯々菜はオーバーロードによって得た力により心の内がダダ漏れになってしまいため、他者とのコミュニケーションが出来ずに心を病んでいた。
また、周太も彗星病のせいで長期入院を余儀なくされて孤独を深めた時期があった。つまり唯々菜と周太は欲しくも無い力によって孤立しており、似たような境遇にあった。
力を開放した周太によって、唯々菜は望んでいた学園生活、家族、友人という「普通の生活」を手に入れることが出来た。
しかし、一度お互いの存在の大切さを認識したうえでは、「普通の生活」よりも大事なものがあった。そのため再度テレパシー能力を発動させて、周太を助けに行くことになるのだが、ロミに指摘されているようにもう普通の生活を送ることは出来ない。お互いの存在を望んだ代わりに、二人が望んだ「普通の生活」を手放すことになるENDはハッピーエンドに見えて切ない。
周太に無償の愛を捧げ、常に味方であり続ける有村ロミ
どんなピンチであっても絶対に諦めないし、天才的な頭脳をフル回転させて全力で周太をバックアップする有村ロミ。導入部の科学特捜部のメンバー集めからして、周太を掌の上で転がしているとも言えるが、
ロミ自身が自らの願いや幸せを語ることはなく、周太が幸せになることこそが自らの幸せかと思えるほど周太を支える。しかも周太が他の女とくっついたとしてもその姿勢はブレない。
初回にロミルートを選択すると、周太はどのヒロインとも関係を進展させることが出来ず、叔父の提案に従って施設送りになる。
「街に灯りを灯せ」というロミの忠告を受け入れずに、より孤立を深めてしまうわけだがそこで周太は施設で徐々に自我を失っていく。しかしそこへもロミは周太を救いにくる。こうなってくると、もはや有村ロミの周太に対する愛情はもはや母が子に接するときのように無条件の愛情が注がれているように思えてくる。
また、作品タイトルについて。
(アインシュタインの言葉の響きをもじった) 愛内周太が愛を込めて、世界を救う物語 かと思っていたのだけど、周太自身が認めているように頭脳はロミのほうが上だ。
また、ロミの献身的な支えがあってこそ周太は現実世界に帰って来れたのだと思うし他ヒロインルートでのロミのサポートには隙がない。なので最後まで終えて改めて考えてみると、作品タイトルの意味はアインシュタイン並に頭のよい有村ロミの、献身的な愛の物語なのではと思い始めてきた。
いずれにせよ、父から周太への愛情を感じられるシーンはほぼ無いと思うので、ロボットへアインシュタインと名付けられているのは蛇足ではないだろうか。
GRANDルート以降は、好みの分かれる展開
4人のヒロインのルートを終えると、愛内周太と有村ロミ(比村茜)の7年前のエピソードや、人類滅亡の危機など、展開が徐々に壮大な話しになっていくのだが私の感想としてはGRANDルート以降は消化不良だった。その理由を列挙する。
・魂のありかを解明したことによって、人間の魂を肉体と切り離すことが可能。
・遠い宇宙からやってきた地球外生命体が、鯨に擬態して宇宙の真理を解明するために地球人に影響を与えている。そしてそのキーマンが本作の主人公、愛内周太となっており扉を開くと1万人の1の人間しか生き残ることが出来ない。
・人類の制御出来ないほど優れたAIが巫女となって、世界に強大な影響力を持つ彗星機構を仕切っている
以上のように、後半はいくつか話しの骨子となる設定が絡み合ってくるのだがそれぞれで一つのストーリーを形作ることが可能なほど重たいテーマとなっており、それら全てがまとめて進行することによって展開についていくのがツライと感じられる。
しかも、話しを盛り上げておいて死んだと思った周太やその父までもが「実は死んでませんでした」ということになるため、かなり肩透かしを喰らう。GRANDルート以降の展開については、展開が強引すぎたというのが正直な感想だ。
私としては、導入部で愛内周太が気にしている「人の気持ちが分からない奴だと言われる」という内面を掘り下げた展開にしてくれたら良かったのにというところ。
新田忍ルートでは、自分の子どもを持つことでの内面の成長を見たかったし、西野佳純ルートでは佳純に自分を信じさせたように、周太にも他者との信頼関係を築く展開がほしかった。
鯨に擬態した生命体は肉体が滅んだから地球にやってきた。そうして彗星病を撒き散らしたのだが、その対処方法は「他人との交流」というのだから、鯨の文明は周太のように論理的に考えすぎて「人との交流を疎かにしたから滅んでいる」のだ。そこを掘り下げてほしかった。
美談すぎるかもしれないが、人と人の付き合いには論理的な思考だけではなく感情の揺れ動く他者との交流こそが大事なのではないのか、と。
地球外生命体から誘惑された「宇宙の真理」を手に入れることを諦め、ほぼ全ての人類の命を救ったことによって周太が「人の気持ちを分かった」と言うには苦しいだろう。
ゲーム内で流れるインストは雰囲気を盛り上げるのに役立っているし、イラストも巧い。また愛内周太のキャラには共感出来るので、総じてクオリティは高い。前半はとても雰囲気のよいゲームとなっているだけにとても惜しいと思う。