【磯野真穂】講演|医療人類学入門
73 【磯野真穂】講演|医療人類学入門
磯野真穂さんは、トレーナーを志して、早稲田大学の人間科学科で運動生理学を学んだ。あるとき、アメリカへの留学の機会を得て、その留学先で出会った文化人類学に魅了されたという。
私も身体の仕組みを知りたくて医学を志し、大学で文化人類学に出会った。その経緯が似ていてなんだか嬉しかった。
講演というよりは、ワークショップ形式で進められた。
まずは、「病気とは何か?」という問いから始まった。グループに分かれ、それぞれの考えを発表しあった。
磯野さんは、アーサー・クラインマンの「臨床人類学」から引用し、疾病 disease と病い illness に分類して説明した。
疾病は、人間をモノとしてみる生理学視点を指し、病いは、不調とそれへの対処療法で、その人を取り巻く家族や友人・知人たちがそれをどう受け止め、反応するかといった病むことの体験及び影響全体と示した。クラインマンは「病いの語り」で「疾病」の考え方を問題視した。
医療人類学は、1970年代に起こった。なぜ、このタイミングだったのだろうか?実は、この時代に、慢性疾患が表舞台に出てくるようになったのだ。
病気とは何か?という問いを考えるために、3つの事例から考察した。
1.高血圧の元気なおじいさん
2.「医学」上は異常が認められない腹痛が高額のサプリメントによって和らいだ大学生
3.二重にしたい高校生
海外の事例も紹介した。
1.インドの農村で経口補水液を配ったら、貧困が進行してしまった
2.マラリアが蔓延している地区で蚊帳を配っても使ってもらえない
現代の医療についての批判。日本では、あるいは世界的に医療化は止まらない。治療はマイナスをゼロにし、エンハンスメントはゼロを10に引き上げることを意味する。
医者は、「マイナスをゼロにする」という考え方、言葉はそっくりそのまま私が使っていた言葉だったので驚いた。しかし、私は残念な思いを込めて使っていたものだった。だから医療でもプラスに持って行く方法はないのかと考えていた。磯野さんが例に挙げたものは確かに批判される可能性のある者であった。しかし、私は、医療は「エンハンスメント」とはまた違うプラスへの方向があるのではないかと信じる。それを追求していきたいのだ。
講演後、2冊の本にサインをもらって、一緒に写真を撮ってもらった。
2024.10.05 Sat