
竹久夢二展と新年会と、どちらがメイン?
レキジョークルの新年会ランチが天王寺で12時からと決まっていた日、ふと、開催中のあべのハルカス美術館での「竹久夢二」を見ようと思い立ちました。
新年会の会場と美術館は歩いて約10分ほどなので、午前中に観て回れると判断したからです。

「大正ロマンの象徴」と言われる彼の作風自体は、私はあまり好きではなく、今まで絶対に観たいと思ったことはありませんでした。
画家にはありがちな女性好きの恋多き人であり、その作風はどこか乙女チックでメルヘンっぽく、早い話が私の好みではないのです。
しかし新年会のために天王寺まで出向くのであれば、ついでに午前中を使って観てみるのも良いではないかと思えたのは、彼の作品の本物を見たことがなく、テレビや印刷物でしか知らなかったからです。
(※近鉄は阿倍野、JRは天王寺といい、それぞれ駅名は違いますがほぼ同位置です)
半信半疑の実物を実際に見てみるのにはちょうど良い機会でした。
撮影はOKとNGが入り混じっていてわかりにくく、一度NGのものにカメラを構えてしまい係員の方から注意を受けました。
それにしても油彩画に撮影OKのものがあったのには驚くとともに、展覧会での撮影OKとNGの基準がいまだによくわかりません。

どれもレトロでとても可愛い図案でした。
独自の美意識「夢二式美人画」

日本画、油彩画、水彩画、版画、そしてグラフィックデザイン画と、展示作品は多岐に渡っていて合計202点にものぼり、どの作品も彼独特の美意識が感じられる世界を作り出していました。
希少な油彩画
正直なところ夢二が油彩画を遺していたこと自体、知りませんでした。
現在に遺る彼の油彩画は約30点しかなく、本展来会ではそのうちの13点を鑑賞できました。
そして今回の大きな目玉はこの「アマリリス」でしょう。

60.4×40.7cm
AIによると、1919年頃の夢二中期の代表作であり、かつて東京都文京区にあった菊富士ホテルの応接間にかけられていたそうですが、長らく所在不明でした。
それがなんと一昨年の2023年に夢二郷土美術館で新たに発見されたのです。
3年前なら観られなかったと思うと、非常にラッキーでした。
アメリカから里帰り?と言える「西海岸の裸婦」も珍しい。

51.0×62.0cm
2021年1月27日の朝日新聞によると、夢二が米国にいた1931~32年に描いたもので、しかも外国人裸婦を描いた唯一の作品との事です。
夢二は白人女性の肌の色に苦心し、
「その色は私の絵の具箱にはないのだ」と日記に残しているほどです。
青みがかった「ジンクホワイト」、黄みがかった「シルバーホワイト」の2種類の白を使って仕上げています。
確かに先日観た藤田嗣治の乳白色の「白」には及ばない気がします。
それでも夢二が遺した独特の美人画の外国人バージョンというだけでも大変希少です。
紙本着色の日本画
紙本着色とは、基本的には紙に絵の具で描かれた絵画作品の事ですが、主に屏風や襖絵、障子絵などに用いられた技法。
他には墨画や金地着色などがあり、一般的に日本画と呼ばれ、「源氏物語絵巻」もこの手法です。
私が一目見て、自然と笑みがこぼれたのは「立田姫」です。

121.2×97.5cm
「立田姫」となっていますが、同じ「たつたひめ」でも本来は「竜田姫」と表記されているようです。
今から約1300年前の平城京において、五行思想から春=東、夏=南、秋=西、冬=北とし、それぞれの神霊を神格化した女神を配しました。
東には「佐保姫」南は「筒姫」北は「宇津田姫」であり、そして西には秋を司る女神、竜田山の「竜田姫」が置かれました。
秋と言えば「紅葉」。この絵の着物も鮮やかな赤。
いかにも「錦秋の女神」を印象付ける衣装であり、表情はとてつもなく優しく幸福に満ちています。
1対となる東の佐保山とともにどちらの山も現存していませんが、そんな日本神話によるエピソードを彼なりに具現化したのでしょう。
衣装などは夢二が生きた当時のものなのがまた面白いです。
そして何と言ってもこの大きく腰を捻った愛らしいポーズと、バックのダイナミックな富士山との対比が素晴らしく、当時としては斬新だったのではないでしょうか。
さて、画中の文字は、杜甫の漢詩「歳晏行」の一部を引用したものです。
「去年米貴闕軍食」 去年米貴くして軍食を闕く
「今年米賤太傷農」 今年米賤しくして太だ農を傷ましむ
「去年は米が高くて日常の食にも事欠き、今年は米が安く農民は苦しい生活をしなければならない」
まるで現在の世相を語っているようで、ちょっとびっくりしました。
一見すると絵とは不釣り合いと思える漢詩ですが、前述のとおり、竜田姫は「錦秋の女神」として豊作をもたらす神であることから、弱い立場の人々に寄り添い、その苦しみを私が引き受けますという事でしょうか。
この振り返った姿は、話を聞こうという姿勢なのかもしれません。
そしてサムネイル画像の「秋のいこい」。

150.3×163.0cm
木綿縞の着物で素足に下駄の女性が黄色のプラタナスに囲まれたベンチに座り、大きな荷物を傍らに、くたびれた様子で物思いにふけっているので、家出でもしたのかと想像してしまう一枚です。
タイトルに「いこい」とありますが、この絵からは憩いは感じられず、むしろ途方に暮れた疲労感を感じてしまいます。
さらには焦燥感さえ漂わせて、秋の光景と相まって感傷的な空気をまとった絵となっています。
デッサン
どの画家もそうですが、直筆のデッサンほど活力を感じるものはありません。
残念ながら今回の展示でのデッサンは全て撮影禁止なので、ここにはチラシの中にあったものを掲載します。

「ベルリンのアレクサンダー広場にて」
デッサンの良さは、画家の迷いや描く過程が見えて、まさしく肉筆感がいっぱいなところです。
着色された絵も良いですが、デッサンにこそ画家の本領が発揮されていると思います。
描きたい衝動に駆られて、実線を模索しながら仕上げた経緯がよくわかり、私はそれが見て取れる事に感動してしまうのです。
作品の元となった3人の妻たち

だいたい夢二の作品に登場する女性がどれも似ているのは、この女性像が彼の理想なのでしょう。
多くの女性と浮名を流した夢二でしたが、妻となった3人からは特に大きな影響を受けました。
・岸 たまき
夢二の戸籍に入った唯一の妻。
「大いなる眼の殊に美しき人」と言われた容貌から、彼の絵に登場する女性は基本的には彼女だったと言われています。
3年後に離婚するも別居と同居を繰り返し、3人の息子を産みます。
夢二デザインの商品を売る小間物屋「港屋絵草紙店」の女店主となり、店を切り盛りしながら、夫の浮気癖に翻弄されたのかと思うと、ちょっと気の毒に思います。
・笠井 彦乃
夢二にとって「永遠の最愛のひと」。
たまきが切り盛りする「港屋絵草紙店」で出会い、相思相愛の上、同棲生活が始まります。
しかし結核により25歳の若さで世を去ります。
・お葉
彦乃亡き後、絵筆を取れないほど落胆した夢二の絵のモデルとなった人。
夢二の理想女性の立ち居振る舞いを意識して身につけ、夢二式美人画の理想像となる努力をします。
それだけ彼女は夢二を愛していたのですが、当の夢二が彦乃の面影を追い続けたままなのを苦にして自殺未遂まではかり、ついに彼女は別れを決意します。
上記の「秋のいこい」は16歳で夢二のもとに来たときの彼女だったと言われています。
中には、おそらく籍に入った妻・たまきの授乳中の絵もあり、それを眺める夢二の愛情さえ感じるもので、澄ました女性像ばかりではない事に、今回は気付かされました。
どうも夢二は優しすぎたのかもしれません。
多くの女性たちと関係を持ったのも、その性格が故なのでしょう。
だからと言って、妻たちにしたらたまったものではなかったはずです。
以上の3名の女性たちが、夢二作品のモデルであり彼独特の美人画を作り上げた基本となった事は間違いありません。
レキジョークル新年会

あべのハルカスから約650m北にある新年会ランチの会場へと向かいます。

旧住友財閥の別邸で家主である住友”保丸”の名前から店名も「やすまる」となっています。
大庭園を有し、天王寺のガチャガチャした喧騒など少しも感じさせないお屋敷で、工夫を凝らした豆腐料理中心のお料理をいただきました。

もちろん料理も美味しいのですが、3人以上で個室を与えられるので、かなり騒いでゆっくりできます。
(料理のウンチクは割愛します)
今年の予定を決めるつもりでしたが、結局決まったのは4月のお花見だけで、その後の詳細はちゃんと決まりませんでした。
あとは成り行きでゆるゆるといくとしましょう。
ほんまにまとめるのは大変や💦
その後、青果・果物店が併設されたカフェ「ichica」で仕切り直し、それでも話は尽きず、よくまぁこんなに喋れるものだと他人事のように感心します。

密かに思うのは、この場にヒデさんがいないこと。
口には出していませんが、昨年の新年会には元気に参加していた彼女が今は存在しない事が残念でたまらず、虚しさを感じずにはいられません。
つくづくヒデさんの分まで残りの人生を楽しもうと強く思いました。
noteを書いてみて気付いたのは、私の中で新年会と絵画展の比重に大きな差があるという事で、完全にこの日は展覧会がメインのようになってしまいました(笑)

ichicaのインスタ
【参考・引用】
・金沢湯涌夢二館
・油彩画「西海岸の裸婦」 ロマン求めた夢二の到達点
・錦秋の女神「竜田姫(たつたひめ)」と紅葉の関係
・漢詩と中国文化
いいなと思ったら応援しよう!
