消えかかっていた素顔
『窯変源氏物語』以前の橋本治の小説が『橋本治小説集成』という形で復刊されたことがある。それは初め12巻刊行される予定だったが、『桃尻娘』シリーズ全6部、6巻の刊行で終わってしまった。理由はわからない。その後ポプラ文庫で復刊された『桃尻娘』も第3部で止まってしまった。
上に引用した文章は、『橋本治小説集成』刊行に寄せた橋本治の「ごあいさつ」の一部である。私は古本があまり好きではないのだが、古本の中にはごくまれにこのような貴重な文章が載ったチラシがタイムカプセルのように挟まれていることがある。
橋本治はさまざまな仕事をしたために、橋本治を語る人の数だけ橋本治がいるというような状態でもあるけれど、文筆業でデビューしてからの橋本治自身は一貫して小説家でありたいと考えていた作家だった。『窯変源氏物語』以前の小説は橋本治の「消えかかっていた素顔」だと橋本治は書く。“消えかかっていた”の意味は、絶版になったという意味だけではないだろう。絶版になるのは仕方がないことだとしても、完全に消してしまいたくないと願う読者は私だけではないはずだ。