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フィンセント・ファン・ゴッホ / メトロポリタン美術館
一番必要なことは、自分の頭でものを考えられるようになること
「自分の頭でものを考えると、当然のことながら、“孤独”というものがやって来る。そうなると、日本人の多くはすぐに心細くなって、『この心細い自分をなんとかしてもらいたい』ということになって、“救済”の方へ行ってしまう。『自分の頭でものを考えて、それで孤独になるのなんか当たり前のことじゃないか。“自分の頭でものを考える”ということは、“一人で考える”ということなんだから』という、いたって単純な発想がないからそういうことになるのだが、なんでそういう単純な発想がないのかということになったら、“自分の頭でものを考える”ということに、日本人が慣れていないだけだろう。
室町時代には、『紫式部は地獄に落ちた』という言い伝えがあった。【『源氏物語』というフィクションを書いた紫式部は、狂言綺語(きょうげんきぎょ)という“嘘”を弄して多くの人を騙したから、それで地獄へ落ちたのだ】という説である。つまり、“自分の独創的な意見を言っただけで罰を受ける”のである。他人の言うこととは関係なく、自分の意見を持って“自分だけの世界”に閉じこもれば、当然孤独が待っている。それだけで当人は心細いのに、そこへ、『“自分の意見”というネもハもない嘘をついて人を騙した』という“攻撃”がやって来るんだから、自分の頭でものを考える人間にとっちゃ、たまったもんじゃない。そういう前提だってあった国なのである─この国は。
日本人は孤独に弱い。ものを考える人間は特に。だから、“自分の頭でものを考える”は、すぐに“救済を求める”に行ってしまう。“自分の頭で結論を出す”くらいの我慢をすりゃいいのに、そういうことになる。」
──橋本治『宗教なんかこわくない!』