「恋に悩む時期」は「自分に悩む時期」とイコール〈日めくり橋本治〉
「『恋は、悩める我を救うもの』と思って、『早く理想の異性様、お姿をお現しください』と拝んでいるものは、『理想の自分自身の異性形』なのである。その一方で、人間の中には『憧れの同性』だっている。『早くこうなりたい』と思って理想の同性像を拝んで、そこに同性愛感情を育ててしまう人間もいるし、『憧れの同性』と『憧れの異性』の区別がつかなくなってしまう人間もいる。『悩める我を救うものは“こういうもの”』と思って、その救済者の姿に自分を合わせて、角刈りにしてしまう女もあれば、ドレスを着てしまう男もいる。『理想の異性』を『宝塚の男役』や『歌舞伎の女形』に発見して、自分の救済者をいたってわかりやすく過剰なものに設定してしまう混乱だってある。要は、『恋に悩む時期』が『自分に悩む時期』とイコールだからである。」
──橋本治『人工島戦記』