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歴史を記述することは

「盆栽を育てる上で重要なことは、『どの枝を伸ばすか』という見極めなんだそうな。成長して伸びて行こうとする枝の先を、全部刈り取ることは出来ない。どこかに一ヶ所、『伸びて行こう』とする生命の進む道を残しておかなければならない。根から始まる盆栽の幹は、その『たった一つの頂点』ともなるような枝に向かって伸びて行く─それを守ることが、盆栽における『形を整える』なのだ。それを知って、私は盆栽があるものと似ていると思った。『歴史』である。
種々雑多なディテールが、時間と共に枝葉を広げて、それを放置したら、もう『歴史』というものは、記述不可能になる。だから、『どこに向かって行くのか』という一つの方向が、『歴史』の記述には不可欠になって、その一つの方向を、『歴史』の場合は『史観』と言う。それがなければ歴史はまとまらないし、その史観の質がダサければ、その方向性によって記述された『歴史』もまた、ダサいものになる。美しい盆栽─この時間によって造形される日本美術の一つは、『順当に記述された歴史』のようなものなのである。」

橋本治「歴史のようなもの」
『ひらがな日本美術史5』


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