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『花物語』橋本治・文、さべあのま・絵

「教科書に載るような小説」を裏テーマに、四月から三月までのさまざまな瞬間をいろいろな主人公の視点で切り取る連作短編集です。

帯にもあるように、「若い読者にこそ美しい物語を読んでほしい」という橋本治の願いが込められているような本。

印象的なのは「幸福」という言葉です。
若い主人公が「自分にとっての幸福とは、こういう瞬間ではないか」と掴んでいく話が多かったように思います。
誰か他人にわかりやすい形でなくていい、自分だけにわかる「感覚」でいい、それを大事にしてほしいというメッセージのようにも受け取れました。

この本で書きたかったのは話のディテールではなく、「こういう感触ってあるよ」ということ、と巻末のインタビューで言っています──たとえば「寂しい」という気持ちのなかに、もっと複雑なものがある、とか。
またたとえば、モネとかの印象派と言われる画家が光を分析するように、光の中のブルーとグリーンの間に紫がある、そういう、ハイビジョンで見ればわかるようなことに気づく、そんな複雑さ。

感覚を大事にするような本の中にあって、進路の岐路に立つ女子高生が主人公の話のなかで、

「“大変だけど、でもそんなこと平気だ”って言えるだけの自信がないのって、なんか、つまんなくていやだな」

という現実感のある言葉が出てくる感じが、好きです。


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