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観念は結構美しく、現実は結構楽しい。

「美という文化の主流は、この『観念の文化』の系統だろう。本居宣長の言葉に従えば、縄文から板蓋宮を通って仏教寺院の壮麗な建物に至るのは『漢意(からごころ)』だ。弥生から埴輪を通って『茶の湯』『琳派』『民芸』へと至るのは、『やまとごころ』だ。別に本居宣長はそんなふうに言っていないけれども。
私にしてみれば、美術史というものは、どうしても『漢意』の流れだ。人というものは、どうしても自分の生活の外にある『観念』というものを目指してしまう。文化とは、だから往々にして埒もない『憧れ』の集成だ。それでもよいのではないかと、私は思う。と同時に、そんな人間達が拒絶する『現実』の中にも、結構埒のない『童心』は隠れていると思う。
観念は結構美しく、現実は結構楽しい。その二つのことが同時にないと、やはりおもしろくない。『そうではなかろうか?』と問いかけているのが、この埴輪という、美術史以前の『幸福な表現』なのではなかろうか。
埴輪を見た時に感じる不思議な温かさは、やはり『幸福』と言ってよいようなものだろうと、私は思うのだ。」

橋本治『ひらがな日本美術史』


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