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胸を張ってください〈日めくり橋本治〉

「橋本治のかけこみ人生相談」から、学歴コンプレックスに対する回答の言葉を紹介します。

中卒で働いてきた男性が子供に胸を張れなくて辛いという相談に、自身の父親のエピソードを交えて子供の立場から語ります。

父親は勉強がよく出来る子供だったらしいのです。それで、小学校の担任が家までやって来て、上の学校─つまり当時の中学で今の高校へ、『行かせてやったらどうですか?』と言ってくれたんだそうです。
父親は農家の次男坊だったのですが、その父である母の父方の祖父は『百姓の息子に我慢はいらん』と言って、それを一蹴してしまったそうです。説教がましい父親の話なんか身にしみないものですが、その時ばかりはリアルに『悔しかっただろうな』と、若い日の父親の胸の内を思いました。

お子さんに話すべきことは、学歴のことなんかじゃありません。『どうして自分は中卒になったのか』というあなたの人生、そのリアリティです。それだけが人を動かします。お子さんに対して押しつけるのではなく、『よくも悪くも、これが俺の人生なんだ』と折を見て話すそのことが、『子供に胸を張って語る』になるのではないでしょうか。
『コンプレックスで胸が張れない』のではなくて、『胸を張らないからコンプレックスにつぶされる』です。『高卒や大卒なんかよりも、中卒はもっと早い時期から働いているからえらいんだ』という考え方をなさるようにおすすめします。
昔、私の家には中学を卒業して住み込みで働いている人が何人もいました。そういう人たちがいる中で、中学を出ても働かずに高校へ遊びに行っているような状態は居心地の悪いものです。そういう感じ方をしていた人間もここにいるのですから、胸を張って下さい。

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