ないものは自分たちで創ればいい
あなたはどんな街で暮らしたいですか?
”みんなが住みたい街ランキング”というものを見かけたことがあるように、近所に桜並木があって散歩ができること、スーパーや病院などが充実した生活の便利さがあること、趣味が同じ仲間に出会えそうな場所があること、などいろんな憧れがあって、
大人になると、一定の制約を抱えながらも「どうやったらもっと楽しくなる?」って思いで、街を選び、暮らしているんじゃないだろうか。
でも、これはあたりまえのことではないのかもしれません。
心の病をもつ方の中には、自分で住む場所を自分の意思で選択するということなく、育った家で、両親と暮らすという方が多いのが現状です。
もちろん、親と住むことや、生まれ育った家での暮らしを否定するものではなく、『ここに住まざるを得ない』というような響きから、自立した暮らしの選択肢がないということです。
ならば、街の中で自立して暮らせるような環境を、”生活する部屋”から作っていこう。そんな発想で生まれたのが『コスモスハウス』です。
大阪府泉大津市の住宅街、2013年4月1日にできたグループ・ホーム「コスモスハウス」。ここを生み出した 精神科ソーシャルワーカー 石神文子さん へ会いに行ってきました。
厚生労働省 精神障害者ニーズ調査:外来患者の場合、平均年齢が46歳で7割ちかくが家族と同居。
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まず、驚いたのが、アパート一角、数部屋を借りて運営していることです。当時、心の病を持った方を対象としたグループホームは、病院の敷地内に建てられることも多かったのが現状です。創り手の強い想いと、周りの理解や協力がなければ生まれないもの。どんな思いがあったのか、石神さんに伺いました。
いったいどのような発想から生まれたのでしょうか?
大切にしているのは、”ごく当たり前の生活” その人なりの、その人らしい生活を見つけることです。
「住む人がどうしたいのか?」を大切にすること。これまでの多くは、心の病を持っているかどうかで分けて、考えてきたと思うのです。そうではなく、その人が持っている固有な生き方の”癖”を見極めることからはじめ、それをありのまま認めて暮らすには、どうしたらいいか?を、一緒になって、合うやり方を一つひとつ見つけていこうと考えてきました。
ここのルールの一つには、「昼間は外に出る」というのがある。今ある支援制度にあてはめ、障がいを持った人が通う施設から選択してもらうという発想はない。まずは、”あなたはどうしたいのか?”を聞くことからはじめている。
ある人は、高校へ通ったことを話してくれた。学校に行きたい、学びたい願いがあったからだ。本人の希望する形をどうやって実現できるかを、一緒になって考え、一緒になって学校を探し、先生方へ説明しに出かけ、実現したものだった。
どうやってつくってこれたのでしょうか?
”大切なのは、隠さないこと” 隠しておいて「偏見をもたないで」というのは無理な話です。
地域の方たちの話し合いでは当事者も自らの必要性を語ることを大切にしてきました。障害のことや、親子が先の見通しの立たない生活をしているという苦しみを知ってもらう努力をするんです。「何かあれば、いつでも私に連絡して頂戴」って連絡先も公開する。そうやって、コツコツと地域の人たちとネットワークをつくることをやってきました。
私が訪問したとき、お昼にしようと、石神さんと近くのお蕎麦屋さんへ入って行きました。お店にたまたま居合わせたお客様の中から、「こんにちはー」と何人も声がかかります。知ってもらう努力を積み重ねてきたからこそ、受け入れられ信頼されるということを感じられた瞬間でした。
どうしてつくろうと思ったのでしょうか?
だって、くやしいじゃない。
これまでの仕事がひと段落し、最後の仕事に、何をしようかと考えたときに思い浮かんだの。地域で暮らす場所をつくろうとね。微力ながら、1961年、この領域の仕事がつくられた当時に精神科ソーシャルワーカーとしてトレーニングを受け、長年、地域での生活支援や意識改革に取り組んできたという自負があった。が、まだまだ、当事者があきらめている現状が目の前にあったの。
今の時代になってもなお、自立した暮らしを当事者があきらめているのが現状だ。そして、日本の精神障害者を圧倒的に抱えてくれている医師たちが、「今の暮らし方でいい」と考えざるを得ないのが、くやしくてならなかったのだそう。
石神さんからお聞きした暮らしの中での課題は、他の調査結果にも現れている。
社会就労センター利用者を対象とした全国的実態調査の結果で、「働きたい」と答えた精神障害者にその理由をたずねている。
「普通のところで働きたい」と答えた人が 4 割 近くを占め、「高い給料がほしい」と答えた人 よりも上回った。
「普通のところで」という強い思い、何を意味しているのだろうか。このことは、「病者」ではなく「生活者」として偏見を持たれず、働く場と捉えられるのではないだろうか。
コスモスハウスを立ち上げて8年目、石神さんは今、80歳を超えている(注:年齢のことを聞くと叱られます)。これからの計画を聞かせてくれた。
今は男性専用なのよ。つくりはじめてからわかったのは、男女別にしないといけないってこと。わたし知らなかったから、えーっ!て驚いたわよ。だから仕方なく、登録するときに男性専用に。これから女性専用も作りますよ!
え、なんでそこまで?って聞いたら。
「だって、住みたーいって人が待っているのよ。」
と笑顔で答えてくださった。
その彼女の口癖は ”だって、くやしいじゃない”
くやしさをちゃんと受け入れたからこそ、言える言葉だと思う。くやしさは、前へ進む愛のエネルギーだ。
彼女の仕事は、私たちの未来に必要な仕事
「人の方に重心を置くと決める」✖️「ないものは自分たちでつくる」=「望む人が自立して生きてゆくことを可能にする場所」
これは心に病を持った人のことだけに限らないことだと思う。もし、この記事を読んでソワソワした人は、どうやったらもっと楽しくなるのか、「あなたらしい暮らし」「あなたらしい仕事」について、考えてみてはどうだろう?
何歳になったって、いつからだってはじめるのに遅いことは何もない。あなたが、30歳でも50歳でも。いつの間にか世界がもっと楽しい場所になっていることを願って。
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