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【突撃!! 循環器診療についてショウジ先生に聞いてみた!】 第1回 Prologue

 飯塚病院の総合診療科には,病棟診療部門(ホスピタリスト)と外来診療部門があります.なかでも,病棟診療部門では「一般チーム」と呼ばれる比較的軽症,あるいは安定している患者を受けもつ診療班と,「重症チーム」と呼ばれる重症患者を集約して診ている診療班があります.病院全体の病床数に比して集中治療室(ICU)のベッド数が少ない状況をカバーするため,循環作動薬や人工呼吸器管理を必要とする患者は「重症チーム」で担当しており,年間550症例ほど診ています.そのうち60%ぐらいが敗血症性ショックや合併症/併存疾患で複雑化した敗血症です(図1).

 そういった敗血症の蘇生期(resuscitation phase)を乗り越えた患者が,治療過程で体液量過剰(fluid overload)や敗血症性心筋症で心不全に陥ることも多く,輸液の4つのphaseでいわれるところの,①蘇生期(resuscitation phase)に続く,②適正化期(optimization phase)と対峙することに加え,③ 安定化期(stabilization phase)と,④ 脱蘇生期(de-resuscitaion phase)の管理に難しさを感じていることも多くあります.

 敗血症ではなくとも,慢性心不全を抱えた患者が何らかの合併症や併存疾患により病状が悪化した場合は,強心薬や血管拡張薬を使いながら非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)で呼吸補助を行うなど,総合診療科で担当することもあります.また,緩和ケア科と連携し,心不全末期の患者ケアにかかわることも増えてきました.ひとことに心不全といっても病像が万華鏡のように多彩で,かつグラデーションやスペクトラムも幅広く,考え方や治療薬の使い方について循環器内科医がどう考えるのか,その流儀がとても気になっていました.そこで……ショウジ先生に聞いてみた!

⼼不全って正直,苦⼿

循環器診療って,すごく難しいですよね.ひとことに⼼不全といっても,左⼼不全や右⼼不全,両⼼不全もあって…….弁膜症や不整脈も絡んで,治療薬も複雑すぎてなかなか上⼿く診療できないなって思います.
循環器診療や⼼不全治療に対して,苦⼿意識をもっている若⼿の先⽣たちは珍しくないですね.
ついこの前は胸部レントゲン写真で両肺野が真っ⽩になって,呼吸不全で切迫している患者さんの対応を迫られました.
そこで循環器内科にコンサルトしたんですか?
すごく焦りましたが,⾃分でがんばりました.とりあえずはフロセミド100 mgを静注してすみやかに軽快したものの,後に看護師さんから「あんなに⾼⽤量のフロセミドをいきなり使って⼤丈夫なのか」って,すごくいわれました.
われわれ循環器内科が,いきなりフロセミド100 mgを静注する場⾯はあまりないかもしれませんね.現場をよくみている看護師さんほど,循環器内科医の考え⽅や流儀も知っているでしょうから…….もしかしたら不安に感じてしまったのかもしれませんね.
⽇常診療のなかで,理論(evidence)と実践(practice)は乖離があるなって感じることもあって,その狭間で判断に苦しむこともあるというか…….理論的にはフロセミドは40〜80 mgで天井量だということは知っているんですが,もしかしたら効かないかもしれないフロセミドをちまちま投与して反応性をみていくよりも,ガバッと⼗分量をすみやかに投与して,早く肺うっ⾎を解除したほうが患者さんにとってもよいだろうと思ったんですよね.
うっ⾎はできるだけすみやかに解除してあげるのがよい,ということは間違っていないです.あとは,それが総合診療科の医師が独⾃の理論で実践しているのではなくて,循環器内科からみても「妥当と思えるような治療をしている」ということを,看護師さんを含め現場の⼈々で共有できるとよりよいでしょう.
⽇々,もしかしたら間違った⼼不全診療の考え⽅をしてしまっているかもしれないし,総合診療科の若⼿は⽇々多くの診療疑問を抱えているので,ぜひとも川上先⽣とのカンファレンスがやりたいです!!
ぜひ,やりましょう!


そうして始まった⼼不全カンファレンス

⼼不全もいろいろなので,循環器内科から⾒た景⾊も知りたいです.
総合診療科と循環器内科,同じように⼼不全を診療するといっても,その患者背景は異なる場合が多いでしょうし,この超⾼齢社会のなかでとくに難しいテーマでもありますね.
まず,われわれ循環器内科は⼼不全で入院している患者に対して蘇⽣期と判断して輸液するようなことはありません.もちろん⼼原性ショックであってもルーチンの輸液負荷は推奨されていません.そういう患者さんは⼼筋梗塞の治療として冠動脈病変への介入が中⼼になりますし,機械的循環サポート(mechanical circulatory support:MCS)が入ってしまうと集中治療室で管理することが多いですよね.
ドブタミンやミルリノンといった強⼼薬のほか,⾎管拡張薬や利尿薬を中⼼に治療を組み⽴てていくというところは,総合診療科と考え⽅や流儀が異なる⾯もあるかと思います.
敗⾎症をはじめ,われわれ総合診療科で診る急性期は「入れてばっかり」で救急外来から入院して間もないうちは,晶質液を追加することがほとんどですよね.
その蘇⽣期は,われわれにはない景⾊でしょうね.
それで,数⽇後にうっ⾎して,肺⽔腫や浮腫をきたして困る……みたいな.晶質液を投与するのって,塩⽔を⾎管内へ注入するようなものなので,普通に考えたら⽣理的ではないし,⾝体にとっては有害な⾯も無視できないんですが,急場を乗り切るための必要悪のように思っています.
そもそも,⼼不全って何なんでしょう?
核⼼っぽい質問ですが,同時にすごく漠然としていますね.
すごく広⼤な診療分野だというのは承知のうえで,まずはホットトピックや遭遇する頻度が⾼い重要項⽬からご教⽰いただければ,苦⼿な⼈でもとっつきやすいかと思います.
そうですね.まずは,「⼼不全って何?」を考えるところから始めて,HFrEF/ HFpEFの背景や⼼臓弁膜症,⾝体所⾒や検査値といったパラメーターの解釈の仕⽅など,過去の研究や教科書的な理論のみならず,それで現場での実践はどうするの? っていうところまで踏み込んでいければと思います.
ホットトピックで例をあげると,今どきは「ファンタスティック4」が取り沙汰されているので,SGLT2阻害薬を中⼼に紹介しながら,循環器内科としての考え⽅や流儀を⽰したいと思います.利尿薬の代表であるフロセミドなど⼼不全治療薬の使い⽅や考え⽅も補⾜しながら,双⽅の「⼼不全の景⾊」を共有して,シナジーを⽣み出せると嬉しいですね.
ありがとうございます.超⾼齢社会でマルチモビディティ(通称マルモ)の患者さんが溢れていますが,⼈⽣の終末像と思える⼼不全の患者さんともいかに向き合っていくか,を考えるのも総合診療科の宿命であると思っています.現状は緩和ケア科の先⽣たちにも助けてもらいながら,患者さんそれぞれの最適解を模索していますが,⼼不全診療の基本を知り,わかった理論を現場で適切に実践していくということが⼤切だと思います.


当院で2022年の秋から始まった⼼不全カンファレンスですが,総合診療科と循環器内科とのコラボレーションとして有意義な機会となっており,1〜2 ヵ⽉に1回の頻度で⾏い,⽇々の診療を振り返りながらブラッシュアップしていくなかで新たな学びを得られています(図2).次回からは⼼不全の基礎的内容に基づきながら,循環器診療のエキスパートの流儀に照らして現場でいかに実践していくか? に焦点を当てた内容を展開していきます.

(次回に続く)

※本内容は「治療」2024年10月号に掲載されたものをnote用に編集したものです


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