高校生のライティング(=書くこと)における接続詞の使用方略②

「あと」「なので」「ですが」は、高校生の作文に頻出する文頭語である。彼らは「接続詞」として書いているが、これらは口語的な表現をそのまま作文に用いてしまっている誤用として捉えることもできる。
 今回は「あと」「なので」「ですが」の用例分析として、国立国語研究所:言語資源開発センター「KOTONOHA:現代書き言葉日本語コーパス 少納言」を使用して考えてみる。

接続詞の定義について

 学校文法では「接続詞」と「副詞」「連体詞」は明確に区別されている。しかし、それぞれが「文と文をつなぐ言葉」であり、非常に区別が難しい。   文章論を専門とする石黒圭も『文章は接続詞で決まる』の第一章「接続詞とは何か」において同様の困難性を述べている(pp.22-27.)。
 高校の授業においても「接続詞」を説明する際には「文と文をつなぐ」としか言えない場合が多い。本稿においても「文頭にあって文と文をつなぐ言葉」という意味で接続詞をとらえることとする。

接続詞としての文頭「あと」の使用について

 生徒の書いた文章の中で減点されるトップ2が文頭使用の「あと」と「なので」である。ともに、口語として非常によく用いられるため、そのまま文章に書いてしまうこととなる。
 「書き言葉均等コーパス 少納言」で文頭使用の「。あと、」を検索すると1329件がヒットした。その上位100件を調べたところ、出版物からの出典は10件であり、そのすべてが会話文からの引用であるため、口語表現であることは明らかであろう。用例として二つ挙げる。

 ① 玉ねぎはあるだけ入れてくださいね。あと、もし卵があれば、ゆで卵  にして加えるといいですよ
   (yahoo知恵袋、2005)
 ② いっぱいでテンション上がったもん☆タモさんが休みだった回とか久しぶりに見たしっ!あと、中居くんのマイクネタに笑わかされたww(yahooブログ、2008)

 1と2ともに、「それから」「また」などの単純な累加としての意味で用いられている口語表現である。生徒の書く文章の中でも同じような用法で用いられている。コーパスでヒットしたほかの「あと、」も口語的なyahooブログやyahoo知恵袋の一節であったり、小説の中のセリフの一節であったりした。この「あと、」の用い方は
 
泳いだあと、午後の残りをどう使うかはその日によって違う。(村上春樹『TVピープル」文芸春秋1990』) 

のような、形式名詞の「あと」の後ろで読点をつけて文をつなげる用法が転移して接続詞化していると思われる。
 
 この「あと、」を文章に用いる生徒は、口語と書き言葉の区別が曖昧なまま文章を書いてしまう未熟な書き手であることが多い。「あと、」の部分を添削して、「また」や「それから」に変えて返却しても見ないことが多いので、個別に指導するか一斉指導で何度も指導すると「あと、」は使用しなくなる。

接続詞としての文頭「なので」の使用について

「なので」については、高校生が書きがちな文章を提示してみたい。(以下の文章は、これまで添削してきた生徒の文章から、高校生の書く文章の傾向を推測して、私が書いたものである。)

 文学とは芸術の例の一部だ。芸術に対して払うお金は、作者に対する努力の支払いだと思う。なのでAIがコピーしてしまうのは、権利が侵害されてしまう。

 この文章での「なので」以下には、「したがって」「それで」のような必然の帰結を表す順接や客観的な原因を示す順接の接続詞[1]を用いて、後件につなげるべき箇所である。
 しかし、「したがって」「それで」といえるほど前件に確固たる根拠も書けていない。そもそも、前件に「~と思う。」という主観を書いている。そのため、「なので」となんとなくつなげてしまっているのではないか。
 口語的な接続詞「なので」を用いて、断定的な表現を避け、自らの意見の曖昧さを許容しようとしているとも言えよう。

 「書き言葉均等コーパス 少納言」で文頭使用の「、なので」を検索してみると619件がヒットし、その上位100件中、出版物はわずか一件であった。そして、その一件は会話文であったため、「あと」と同じく、「なので」も口語表現の接続詞として考えられる。用例として二つ挙げると


① 相手の気持ちは積み重ねる時間でわかるようになるものだと思います。なので、勇気は必要ですが、彼に直接聞いてみてもいいかもしれません。(yahoo知恵袋、2005)

② ピタと呼ばれる小銭の払い出し機がうまく作動せず、よくお釣りが遅れて出てきます。なので必ずお客様に渡す前に小銭を確認してお渡ししています。(yahoo知恵袋、2005) 


 のように、「知恵袋」などの口語的な用例として出ている。①も②も「なので」以下の後件の理由が前件にはあるものの、①は他の解決策としての後件もあり得る「かもしれません」という書き方である。
 ②は「それで」と書き換えてもよい用例だと思われるが、口語でよく使用する「なので」の方がやわらかくつながるような雰囲気がするので使用しているのではないだろうか。「なので」はもともと


「言ったわね。証拠をお出しなさい」―園子は私の前なので真赤になって力んでいた。 

 (三島由紀夫『仮面の告白』新潮社2003)


のように「名詞+助動詞『だ』連体形」に、原因・理由の順接確定条件の接続助詞「ので」が接続した形式か、または、形容動詞連体形に同じく接続助詞「ので」が接続した形式から転移したと考えられる。

 現在のところは、原因・理由を述べる口語的なつなぎ言葉として「なので」が用いられ、それを生徒は書き言葉として文頭に用いてしまっている。「したがって」「それで」等の必然や原因を示す順接を使用するほどの論理的な展開をしている自信もない状態の生徒が、なんとなく接続詞として使用していると考えられる。



[1] 「したがって」が「必然」の帰結を導くことは、石黒圭『「接続詞」の技術』(実務教育出版社、2016)の巻末表を参照し、「それで」が客観的な原因として結果を導く順接であることは森山拓郎『ここからはじまる日本語文法』(ひつじ書房、2000、p.193、問題8)より。 

接続詞としての文頭「ですが」の使用について

「ですが」についても「書き言葉均等コーパス 少納言」で検索してみると、「。ですが、」は531件ヒットした。
 その上位100件のうち、出版物は42件であった。よって、「あと」や「なので」よりは一般的な接続詞としてとらえられているようだが、用例としては口語的である。


① 思想とか、自然にとけこむことの大切さとか、そういう言葉はいっさい使われていません。ですが、読み進むにつれて「「私は立ちます」 ―どちらへ?「パリへ。ですが、まずご意見をお聞かせください」母親にとって、心臓が止ま私は立ちます」 ―どちらへ?「パリへ。ですが、まずご意見をお聞かせください」母親にとって、心臓が止ま(エミール・ルートヴィヒ(著)/ 北澤 真木(訳)『ナポレオン』講談社、2004)


 ①が読者に語りかけるような口調で書かれた一般書からの用例であり、②は小説中の会話で用いられた用例である。文頭の「ですが、」は、①のように敬体の文体で書かれた語の逆接の接続詞として使用されているが、

 学校教育で用いる教科書や参考書には逆接の接続詞として掲載されていない。本校で使用している『国語図説 六訂版』(京都書房、p.492)掲載の逆接の接続詞は

  が だが でも しかし けれども ところが

 である。この中で「だが」は常体の文体の文末語尾「~だ。」に逆接の接続助詞の「が」が接続して成立したと考えられる。
 「ですが」も同様に敬体の文末語尾「~です。」に「が」が接続して成立したものであろう。
 しかし、高校生の使用する国語辞典では「だが」は接続詞として掲載されているが、「ですが」は掲載されていない[1]。当然、高校生が文章中に使用した場合には「口語的表現は使用しない」として減点対象となる。

 では、高校生はどのような文脈で文頭「ですが」を接続詞として使用するのだろうか。




[1] 学研『現代新国語辞典 改定五版』、三省堂『新明解国語辞典 第五版』


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