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個人が住む場所を選択できる時代の地方の在り方を考える~若い人たちに来てほしいなら若い人たちが生き生きできる環境をつくることから始めよう その1~


橋本治さんの「草薙の剣」という小説は、10歳ずつ年の離れた6人の主人公とその両親や祖父母の半生を描いた物語です。昭和初期から平成の終わりまでのおよそ100年間の日本が描かれているのですが、どこにでもいそうな無名の人々を淡々と描くことで、それぞれの時代や価値観の違いをくっきりと浮かび上がらせています。
今ではなく、将来を考える上では欠かせない視点です。地方創生に携わることになった私にとって、読んでおいて良かったと思える一冊でした。


さて、都農町は多くの地方がそうであるように、人口減少、少子高齢化が深刻な問題となっており、若い世代の労働力不足や、地域の事業者あるいは農家の方々が後継者不足に悩んでいます。それらは、事業が立ち行かなくなる、農業が衰退する、ということはその事業者あるいは農家だけの問題ではなく、その地域全体の問題でもあります。廃れてからでは遅いので、今まさに打てる手をどんどん打っていかなければならないのです。
そういう意味では様々な施策を大胆に行ってきている都農町は、行政としては積極的なのだろうと思います。しかし、行政だけではなく、あるいは一部の民間だけではなく、町全体として機運を高め、そこに立ちはだかる課題に対して思い切った取り組みをしていかなければなりません。

2019年8月、都農町、一般社団法人ツノスポーツコミッション、株式会社J.FC宮崎(J.FC MIYAZAKI)の三者は「つの職育プロジェクト」に関する連携協定を締結しました。これも先述の課題を念頭に置いたもので、町を挙げた取り組みの一つです。
協定を結んでからおよそ1年、すでにこのプロジェクトによって約60名もの人が都農町に移り住んでいます。人口約1万人の町にとって、60という数字は決して少なくありません。先日の人口調査では、もしこの60名が移住していなければ1万人を割っていました。
私も都農町地域おこし協力隊の一人として、ツノスポーツコミッションおよびJ.FC MIYAZAKIに携わりながらそのプロジェクトを推進していく立場で活動しています。まだたった1年半ですが、様々な取り組みや日々の業務の中で共通して感じることがあります。
それは、若い世代が都農に残ったり外から都農に来たりするためには、若い世代が生き生きできる環境を都農につくることから始めなければならない、ということです。考えてみれば当たり前なのですが、見落としてしまいがちに思います。

便宜的に乱暴な括りをしますが、これまでの社会を築き上げてきてくれた60代、70代、今を動かしていく30代、40代、50代、これからを担っていく10代、20代。10年も歳が違えば育ってきた環境も時の社会情勢も価値観も大きく異なります。冒頭に紹介した「草薙の剣」ではそれがくっきりと表現されています。

先日、自民党の役員人事が発表され、その平均年齢が話題になりました。菅義偉総裁(71)、二階俊博幹事長(81)、佐藤勉総務会長(68)、下村博文政調会長(66)、山口泰明選対委員長(71)、以上5名、平均年齢は71.4歳。80代でもバリバリの現役、70代が中心で、60代は若手という、グラウンド・ゴルフ大会さながらのこの状況に、10代、20代の居場所はありません。

ここまで極端ではなくとも、上の世代が下の世代を知らず知らずのうちに押さえつけている状況はそこここにあふれています。まずはそのことに自覚的であることが必要です。
生まれ育った土地に無条件に居続けるような時代は随分昔のことです。テクノロジーの進化によりこの先ますます利便性は増し、移動はより簡単に、より自由になり流動性が増していきます。住む場所の選択が個人に委ねられる度合いは高くなる一方です。特に若いうちは縛られるものが少ないゆえ、自分に合った土地を探すために移動を繰り返すことへの抵抗も少ないでしょう。
そんな若者に選ばれる都農にならなければ、この先の未来が拓けることはありません。若い人たちに来てほしいなら若い人たちが生き生きできる環境をつくることから始めましょう。

いくつかの出来事から、共通してそんなことを心にとめておかなければならないのだと再認識させられています。
それぞれの事象について、今後ひとつずつ書き連ねていきたいと思います。

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石原英明 ―チリチリウォーズマン―
自分の真意を相手にベラベラと伝えるだけが友情の行為ではないということさ。それがわたしの提唱する真・友情パワーだ…(キン肉アタル)