
Photo by
inagakijunya
短編『何も気にならなくなる薬』その333
近頃は常に一冊の単行本を持ち歩くようにしている。
ただ道中で読み終わるという現象は毎度のことながら複雑な気持ちになる。
もう一冊持っておけばよかった。
しかし、そういう時に限って読む暇がなく荷物になって後悔する。
スマホで読めばいいのでは?
という意見もありそうだが、カバンの中に一冊単行本があるということがいいのだ。
だいたいこの手の理屈は根拠がない。
---
【昼下がり、専門学校、踊り場】
お弁当を食べて終えてから一コマ授業が終わる。
眠気覚ましのために廊下に飛び出し、踊り場で友人とくだらない話をする。
「踊り場で実際に踊るやつがいるんだな」
流行りの動画を撮るために同じクラスの女子たちが不慣れなダンスを踊っている。
あれはどこか別の世界のことだとばかり思っていたが意外と身近なことだった。
そういえば、あれは昨晩あの二人の生徒が別の音楽で踊っているのを動画サイトで観た。
これが学校の中だけじゃない、公共の電波にのっているのだ。
「次の授業、なんだった」
「なんでもネットりてらしーだとか」
「あー、だとしたらあのダンスは今日が見納めかもな」
何であれ異性が踊っているのは見ていて悪い気はしない。男は単純だ
「最近ではネットに動画を挙げる人も多くいると思います。ですが、映像から住んでいる場所、学校、勤め先、私たちが意図していない形で個人情報を世の中に発信しています。
自分の身を守るためにも不用意な動画投稿はやめるように」
殆どの生徒は眠気に負けている。
かくいう自分も負けそうだ。
友人は机に突っ伏している。
あの女子生徒もだ。
この様子だとまだ動画投稿は続きそうだ。
いいなと思ったら応援しよう!
