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短編『何も気にならなくなる薬』その276

「深層心理」

「わしづかみ」

「イグアナ」

路地裏に入るとそこには占い師。
占い師だとわかるのは、おそらくは私達の先入観に訴えかけるだけの情報があるからなのだろう。
顔を隠したアジアンテイストなローブと水晶玉。
普段ならそんなことはしないのだが、その時はそういう心持ちだった。
今思い返すとあれは精神的な疲れ、何か変化を求めてしまう心の欲求のせいなのかもしれない。

「占ってもらえるのですか?」
「えぇ、あなたが望むのなら」
自然と料金については聞かなかった。
安ければそれだけだし、高ければ踏み倒して逃げることも出来ただろうし、なんならそれだけ散財していい心持ちだった。
何処か世の中に楽しみが見い出せなかった。
「あなたが望むもの、そうですね、何かをこう鷲掴みにしたい。欲にまみれている。しかし、その獲物が見つからない、そんな感じでしょうか」
「鷹みたいな感じですか」
「いや、あなたの深層心理はイグアナですね」
「イグアナ」
「はい、イグアナです」
「イグアナってあの」
「イグアナです」
「イグアナってなんですか」
「トカゲの仲間です。多くは草食ですが雑食です」
「欲望があるのに草食ですか」
「草食系にも欲というものはあります」
「欲ですか」
「水が欲しいとか、虫が食べたいとか」
「三大欲求のようなものですか」
「そうですね、あなたには休息が必要です。こうして私の話を鵜呑みにするくらいですから」

美味しいご飯を食べます。