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メモ帳供養 その十五「習わし」
さてさて、魚亭ペン太でございます。引き続きメモ帳供養です。たまに自分でもなんてものを書いているんだと思いますが、それもまた一興ということで、お付き合いいただけたらと思います。
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彼の友人は宝石商であったため、私の目の前にはいくつかの指輪が並べられていた。選んだ指輪は結婚指輪になる。彼のプロポーズを承諾した私は、彼の友人から祝福の言葉とともに指輪を受け取った。
これが人生最後のプロポーズなのだとして、私は思うがままに大きくて綺麗な指輪を選んだ。
「そしたら、君が選んだ指輪を飲み込んで」
「えっ、いまなんていったの」
「だから飲み込んでって言ったんだ。僕たちの集落じゃこうやって結婚指輪を飲み込むのが習わしなんだ」
「で、でも、こんな大きな指輪、飲み込めない」
「だから言ったじゃないか、もっとシンプルで小さく収まりやすいものがいいって」
「それはあなたのデザインの好みと懐の事情だと思って」
「そう捉えたのか。でも、とにかく決まりは決まりなんだ。だから飲み込んで」
平然と飲み込むことを要求する彼の表情は私にとって薄ら恐怖を覚えるものだった。
「いやっ、いやよ、そんなの無理」
「そう、それなら僕からの婚約は取り下げることにするよ」
残念そうな顔をして掌へ指輪を戻すように彼は要求する。でも、これでは今までの私の努力が無駄になってしまう。それに……
「いや、そうじゃないの。もう一度選び直しましょう。もっとシンプルで飲み込みやすい指輪にしましょう。ね? 私が欲を掻き過ぎたの。だからおねがい」
「うん、それならそうしよう」
「ねぇ、わたし、これ、これがいいわ、きっとこれなら上手に飲み込める」
「そうだね、とてもシンプルで美しい」
「ちなみにあなたの集落の決まりって他にもなにかあるの? その、飲み込む以外に」
「身に余るものは持たない。それが取り決めだよ。二人で食べきれない食事は食卓に並べない。なんだって結婚は一人では成し得ない幸せを得るための習慣なんだ。だから君と二人でいることで一人では得られない幸せがこの先待っているよ」
「そうね。そうよね」
「そしたらさっそく子供を作ろう。二人だけでは物足りないだろうから、三人四人と家族が増えればそれだけ幸せも増える」
「でも、それは少し待って欲しいって言わなかった?」
「それでもいいけれど、僕たちの集落じゃ幸せのために子供を授かるのが」
「うん、わかった、わかったわ。そうしましょう。あなたがそう望むなら」
「そうか、よかった。君には無理ばかりさせてしまうけれど、どうか許してくれ。愛しているよ」
「ええ、私も」
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