短編「何も気にならなくなる薬」その103
最近は随分と寒くなった。
お気に入りのウィンドブレーカーとマフラーであらかたの冬は過ごしてきた。あまり着込みたくないのが本音だ。
なにせ電車の暖房が効きすぎだ。
やはり簡単に着脱できて、ある程度軽い荷物に限る。
あと単純に洗濯が楽だ。
カーディガンもおしゃれで結構なのだが手入れをしてこそのオシャレだ。
私にはまだ早い。
さえ、今回のお題はこんな感じ。
「クライミング」
「商店」「貧乏くじ」
「熱伝導」「いもむし」
中々に意味がわからないが、それっぽく四苦八苦するのも醍醐味ということで。
クライミング?
ボルダリングではない方。と言ってもわからないだろうから補足。
ロープなどの安全面で補助があるのがクライミング。
無いのがボルダリング。
当然登る高さも変わってくる。
ロープのないボルダリングに比べて、ロープのあるクライミングの方が登る高さがある。
それが逆だったらこんなに危険な遊びはない。
「商店街を盛り上げろって言ったってな。最近の流行り物を取り入れれば何でもいいというわけじゃないと思うけどな」
クライミング会場を作ったのは商店街の大工の倅。
木造のため、手触りなどにはより一層磨きをかけた。
「ねぇ、これ滑りすぎて登れないんだけど」
「そういうもんじゃないんですか?」
「あなたクライミング知らないでしょ、こんな作り方じゃ遊べないわよ。クライミングらしきオブジェよこんなのは」
「オブジェか、はは、美大に通った成果がここに出たか」
「なにこの人、とにかくね、これじゃあ子どもたちが遊びにきても何も出来ないで終わるわよ。そうなったらこの商店街もおしまいよ」
「いやいや、そんなオブジェ一つで変わりやしませんよ」
「なにしれっとオブジェにしてるのよ」
「いや、なんか、ようやく自分の美的センスが認められたような気がして」
「別に褒めてないんだけど、しかし、あなたも貧乏くじを引いたわね。美大に行ったのに結局家業を継いで、しかも美大にいたばっかりに新しいことをするのに丸投げさせられるし」
「わぁ、なにこれ、登れるの?」
「ちょっと、あなた達、これは登れないわよ、登っちゃダメ」
「そうやってすぐ大人は子供の遊びを邪魔するんだよ。公園でボール遊びはできないし、騒ぐと怒られる。そのくせ家でゲームしてたら外で遊べって言われるし、どうしろっていうんだよ。大人の言うことなんかきかないからなって、これ、本当に登れない。すごく登れそうな形してるのに、滑らかすぎてつかめない」
「どうだすごいだろ、このオブジェ、ずっと触ってるとな、熱伝導で温まってくるぞ」
「うわ、本当だ、なんか温かい。汗かいて余計に登れない」
「これはすごいや、誰も登れないオブジェだよ。きっと商店街の名物になるよ」
「そうかなぁ」
「あっ、でもみて、そうでもないみたい」
「どうして」
「ほら、あそこ、いもむしが登ってる」