本棚に二人
とある地下鉄のフリースペースに古本屋が開かれている。
本棚を見ているだけでも楽しい私からすれば、そこは正しく最高のデートスポットだ。
けれどもそれは自分が楽しいのであって、相手が楽しいのかどうかはわからない。
もう2、3時間。いや、一晩中いてもいい。それくらいに素敵な空間だ。
足を踏み入れから、僕は少年になっていた。
心躍る背表紙の数々が、木々に止まるカブトムシやクワガタなどにみえた。
それは童心そのものだった。
恋は僕達を若返らせる。
けれども彼女は既に成熟していた。
一人の少年の瞳よりも、その行動が予測できない危うさに気を引かれていた。
その時、二人の間に恋愛感情はなく、母性が少年を見つめていた。
だが、母親が少年の心を知り尽くせるわけもない。
甘えたい気持ちの中に、反発する自立という目標がある。
少年が男になるときの小さなプライドである。
少年は輝いた瞳で母親に本を差し出す。
「この本を読んでほしい」
一緒に一つの本を囲んでいる幸せ。
なんてことない行動の一つが、私にとっての幼児退行そのものであった。
仕方なしに彼女は本を手に取る。
その表情は少年の瞳に映り込む。
そして、少年は背伸びをする。
そして、孤独を知る。
愛し合う者同士が同じものを愛しているのではない。
互いが愛し合っていることに気がつく。
つまり、私が私に望む姿は彼女の愛するものではない。
彼女の視線の先に、私には見えない私が存在しているのだ。
少しずつ焦点がずれていく。
私達の求めていた愛は、はじめから食い違いの生み出したものだったのだ。
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