メモ帳供養その十八「愛を知らずして」
こんばんは、魚亭ペン太でございます。
メモ帳供養その十八。一昔前のキリ番みたいな感じもしますが、あまり意識せずに投稿します。色々と模索をしていますが、読む相手のことを考えるのはなかなか難しいですね。
どうしてもまだ、書きたいものを書いている感じがあります。
堅苦しい感じがもしも合いましたら、お付き合いいただけたらと思います。
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死は怒りを前に穏やかでなく、王は民衆の狂気を一身に浴びる。
過去の栄光はここにはなく、尊崇の眼差しは遠いおとぎ話になる。
そこには刻限を告げる必要はなく、世の摂理さえも黙り込み、かの男が正義の斧を振りかざすと、そこにあるはずの喧騒は静まり返った。
民衆に別れを告げることもなく、ただ自らの座りこんだ大地を見つめ、足元を歩む蟻よりも、自らの領地は小さいのだと知る。
振り下されるべき斧は重力という世の理からいっときの別れを惜しみ、その役割を忘れ、地面との逢瀬を待ちわびる。
死を愛する聾唖となって、日が落ちるのを待つか、月が登るのを待つか。
命を弄ぶ刻が民衆に固唾を飲ませる。
落ちた首を拾い上げる姿を、新月とともに待ちわびる。
未だ斬首の縄は弛まぬ。
天に掲げた鉄の葉は、夜露に濡れて錆となり、朝露を黒く染め上げる。
旋毛は無実を語らず、束の間の余生を民衆に晒す。
覚悟の上に処刑の刃は未だ落ちず、肉と心は彼の中で繰り返し人生を語る。
「さぁ、王よ。今にその体を、喉元を震わし、かの神殿に王の声を刻め」
男の声とともに張り詰めた縄は躊躇う。
世に冷酷を残すまいと、震えた唇は赤子が乳房を求むようであった。王の威厳はそこにはなかった。そこにいたのは死を目の前にした一人の老人であった。
「ただ人の愛の上に座る愚王よ。真実の愛を求めぬ臆病者。ここに捨置く未練があるならば、そのすべてにこの斧を振り落とそう」
かの男は正義の斧を振り下ろす。張り詰めた縄がこの緊張を失い、民衆もまた放心とともに時代の移り変わりを目の当たりにした。