モモタロ饅頭
気は持ちようなんてことを申しますが、とりわけ人間はわかったつもりになっていることが多いようで、
近頃のテレビでは動物の映像にナレーターが声を当てて、さもその動物の気持ちを代弁をしているなんてのがありますが、人間ほどおこがましい生き物はいないのですが、これは人間の想像力ゆえです。
大人だろうが子供だろうがこれは変わらない。
「ねぇ、パパ、ライオンさん檻の中で可哀想」
素直で心優しい女の子がいたものです。
しかし、考えてもみれば、ただ何もしないで人から見られてはあくびの一つでもすれば餌が貰えるのですからある意味幸せなんじゃないかと。
「ねぇ、パパ、あの落語家ウケなくて苦しそう」
子供の素直さはときに残酷です。
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「おまえさん、今日は無理しないで、お店休みにしてもいいんじゃないかい。野良犬に団子をやるから変な病気でも貰ったんだよ、きっと」
「おう、ごほ、おれは、ごほ、元気だ。この通りごほごほ」
「なんの説得力もありゃしないよ。ほら、白湯でも飲めば少しは収まるだろうから」
「(飲む)うん、ありがとう。でもな、犬も美味しそうに食ってくれるんだ。もう一つ、もう一つってな」
「犬が喋るわけないじゃないか、あんたの思い込みだよ」
「それが犬ってのは英語で要求してくるんだ」
「なんて?」
「ワン、ワンってな」
「冗談なんか言ってないで今日は休みなよ」
「いや、駄目だ。今日は大事な仕事があるんだよ」
「そんなに大事な仕事かい?」
「あぁ、今日は大口だ」
「大口?あたしは聞いてないけれど、二十個くらいかい」
「いんや、二百だ」
「にひゃく!? どうしてそんな大口、前もって言ってくれないのさ。それで、どこに届けるんだい、宴会かい?それとも葬式かい」
「宴会でも葬式でもない」
「どっかで籠城でもするのかい」
「戦が始まるのか」
「ものの例えだよ、で、どこなんだい」
「うちにくるんだ」
「うちにかい? それなら尚の事だよ、店の奥なんか近頃お客もないから、てんで掃いちゃいないよ。で、何人くるんだい」
「一人だ」
「一人?」
「そうだ」
「やっぱりあんたどこか熱でもあるんじゃないかい? 一人で二百も食べられやしないよ」
「予定だ」
「予定?予定でそんなに仕込むことはないよ」
「でも、ほら、この間、えらく褒めてくれたお客さんいただろう」
「いたね。たしか珍しく売り切れたときの」
「ああ、そのお客さんだ。売り切れじゃなきゃいくらでも注文したって言ってたお客さんだよ」
「あのね、お前さん、その素直なところに惚れたとはいえ、額面通りに受け取りすぎだよ」
「そりゃそうだろう、団子の値段は変わらないんだから」
「そうじゃないんだよ、その人はお世辞で言ったんだよ」
「この間はちょうどお伊勢参りの途中だとか行ってたな」
「そうじゃないよ。ほら、売り切れたって言われて残念そうにされたら、こっちは申し訳ない気持ちになるだろう」
「そうだな、せっかく食べたかったんだから」
「だろう? だから、あんたを悲しませないように言ったんだよ。口のうまいお客さんだよ」
「旨いのは口の中だろう」
「とにかくだよ。嘘をついたんだよ」
「嘘か、嘘は良くない。でも見てみろ本当かもしれないぞ」
「何を言って……あっ、いらっしゃいませ」
「この間はどうも、ご主人いますか」
「主人ですか? ちょっとあんた」
「はいはい、あー、どうも売り切れのお客さん」
「その説はどうも、今日はたんまり頂きに来ましたよ」
「ほらみろ、きたじゃねぇか」
「珍しいこともあるもんだね」
「いやー、お客さんどうも、今日はもうね、お客さんの貸し切りで二百ほど仕込ませてもらいましたから」
「へぇ、そんなに、それは楽しみで」
「ほら、おれは団子に専念するから、お前はお茶出しなよ」
ってんで旦那は厨房に籠もりきり、女将さんは厨房とお客さんの間を行ったり来たり。
夫婦二人で汗だくになっておもてなし。
「いやぁ、うまいうまい、女将さん、もう一皿いただけますか」
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