短編『何も気にならなくなる薬』その85
雑音
かじかんだ手
共通言語
今回はこの三つ。
様々な雑音が入り交じる電車の中、一際目立つのはイヤホンで爆音を垂れ流しにする若者。
その状況に辟易している電車内で、一人だけ何食わぬ顔でいる人物がいる。
他人の動向よりも、自らのかじかんだ手を温めようと揉み込んでいる。
赤に白い十字架、白いハート。ヘルプマークのつけたカバンが彼女のそうしたふるまいの理由を物語っていた。
私は耳と喉で会話をする。
彼女は目と指で会話をする。
共通言語の伝え方が違うだけなのだ。
現に私達はあの爆音を垂れ流す若者に声をかけない。
目で騒音に訴えかけている。
「すみません、この電車は〇〇駅には止まりますか」
声をかけてきたのはその女性だった。
「それならこのまま乗っていて大丈夫ですよ」
先入観が私の五感を狂わせていた。
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