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マイモマックス

「〜の弟子の○○です」

「今度は、落語家が出てきたよ」

飲み物や注文も気が利くし、食べ物も率先して取り分けてくれる。

話ができるだけじゃなくて相槌も上手い。話をじっと聞いてくれる。

表現、そして表情が豊か。

わたし、この人いいかもしれない。

でも、もしかしたら、年取ってから偉そうにして、怒鳴り散らしたり、威圧的な亭主関白になるかも。

お茶が熱かったら文句言いそうだし、ホコリが落ちてたらそれを睨んでそう。

やっぱりやめとこうかしら……

でも、こんな機会めったにないし……

もしかしたら売れに売れて、影で支えた女将さんだなんて言われたりして……

「あの、最近の趣味はなんですか」

「最近はマイモマックスにハマってます」

「マイモマックス?」

「はい、マイモマックス」

「えっと、なんですか、それは」

「知らないですかマイモマックス」

「あっ、はい、ごめんなさい知らないです」

……

……

……

しばらくの沈黙。こういうときって普通、小説とかアニメとか、そういった出処というかジャンルを教えてくれるものじゃないの?

「あの」

「知りたい?」

いや、べつにそこまでではないけれど、もったいぶった言い方が奥歯に挟まったネギみたい。

「知りたいよね、特別に教えてあげよう」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、まずは君のことを教えてもらえる?」

「私のことですか?」

教えたいのか教えたくないのか、なんだかわけがわからない。

かと言って、どうでもいいとも言えない立場なのがもどかしい。

それから私は仕事のことや友達が次々と幸せになっていくことへの焦燥感や将来への不安を自然と話してしまっていた。

「ごめん、急に用事が」

それから彼は先に帰ってしまった。

私にとっては肩すかしを食らったに等しく、楽しさや悲しさよりも疑問のクエスチョンマークが頭の中を占めていた。

それから私が彼のことを気になったのは必然か偶然か、彼の名前を調べて寄席に足を運んだ。

もちろんマイモマックスについてもネットで調べてみたが、それらしい検索結果は見つからず、周囲の友人にも訝しげな顔をされるだけだった。

落語については全くの無知で、ただなんとなく一人の人物が、彼がどうやって生きているのかを観たくなっていた。

それこそ、落語の演目の中にマイモマックスなんて言葉が出てくる様子もなく、彼の出番が終わってからは、なし崩し的に最後まで観ていくことになった。

正直なところ体力を使った。笑うことにもそうだし、人の話を聞き続けるのはなかなかに体力がいる。

結局その日はマイモマックスの謎は解けず、楽しさと不満が入り混じったまま家についた。

落語家に会う方法。

自然と検索をしていたのは、彼に会ってその言葉の意味を直接聞くしかないと考えたからかもしれない。

「それでは次の質問なのですが、師匠と女将さんが出会ったキッカケというのは」

「マイモマックス、ですかね」

「マイモマックス?」

「気になりますか?」

「こちらとしても、特集を組むからには、それはそうですよ」

「そしたらぜひ寄席へ」

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