メモ帳供養 その六「好みのタイプ」
こんにちは、魚亭ペン太ございます。メモ帳供養もその六まで来ました。この調子なら三桁は行けそうな気もしますが、どうだかわかりません。
引き続きお付き合いいただけたらと思います。
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「お前ってさどんな人がタイプなんだよ」
とぶっきらぼうに聞かれても、これがなくては駄目という条件は特別ない。
芸能人に例えたら理想が高いと思われるし、そもそもあれこれと理想を述べるのは非現実的だと言われかねない。もちろん夢を見てないわけじゃない。
私にだってこれをされたら嫌だと否定的な意見はいくらでも並べられるが、もし好きな人が何か欠点を抱えていたとしても気にしないと思う。条件がないこと自体が「何でもいい」という解釈になるのだけは避けたかったので「清潔感がある人」と答えておく。
「でもどうせ後から文句言うんだろ」
「じゃあ、あんたはどうなのさ」
「おっぱいが大きいのがいいな」
「あ、あんただって変わらないじゃない。おっぱいが大きくて顔がイマイチだったら結局文句言うんでしょう。あのアニメみたいな爆乳が好みなんでしょ」
「それとこれとは別だろ。あれは誇張表現だから。それに人の顔に文句は言わねぇよ。ただ天は人に二物を与えずってのは本当だったんだな位にしか思わないね」
「二人ともまたやってんの」
「だってコイツが」
「あー、はいはい、二人とも忘れてると思うから教えるけど、次の授業は移動教室だよ」
すっかり忘れてた。それにしたってアイツは未だにあんなことを言っている。そこは他の男子みたいに女優さんとかを例に挙げてくれたほうがメイクとか衣装とか真似できるのに、あのアニメのキャラクターでは参考にしようがない。ましてやコスプレなんて恥ずかしくて私にはできない。
「仲良く喧嘩するのは結構だけど、見せびらかすのはどうなの」
「そんなんじゃないから」
「じゃあ何なのよ」
「それは」
「じゃれ合うのはいいけど、間違って怪我しないように気をつけなよ」
猫の喧嘩じゃないんだから、そんなことはないと思ってた。
事の発端は本当にくだらない話だ。
「お前みたいにうるさいのは嫌だな」
「私だってあんたなんか」
思わずカチンと来て反射的に否定してしまう。とっさに取り消したくなっても、それは逆に想いを打ち明けてしまうことになると思い留まってしまう。すると別の意味でブレーキがかからなくなる。
いつものようになんとか助け舟が入ってきてその場は収まったけれども、いつものように軽口を叩いて会話を始めることもしばらく難しくなってしまった。
「あいつさ、最近真面目に掃除してんの。あんたが清潔感が云々言ってからだとか他の女子も評価してたよ」
「いやいや、その清潔感じゃないでしょ」
「あんただってなんだかんだ彼に話題合わせようって好みの作品見ているんでしょう。私にはわからない話が増えてきてたし」
たしかになるべく話がわかるようにそうしてきたけれど、彼の変化についてはそれがきっかけだとしたならば、なんだか可愛いところがあるなと思ってしまう。
「まぁ、いいわ、このまま仲が悪くなられるのも楽しみが減るから助けてあげる」
何をするかと思えば私の見えるところで彼に話しかけに行って、何やら私を説得したときと同じように話をしている。彼も私の頑張りに気がついてくれたのか、申し訳なさそうに近づいてくる。
「その、悪かったよ。おっぱいの大きさは別にそこまでこだわってないんだ」
「なんの話」
「えっ、だって、それを気にしてるから謝ってこいって」
「ちょっと、なにを教えたの」
普段相談に乗っている分のお返しだと友達はベロを出しておどけてみせる。
「それに清潔感って掃除じゃないのな、どういうことだよ」
「確かに掃除も大事だけど……それは、ほら、髪型とか肌の手入れとか」
「なるほど、そういうことだったか。それってどんな風なのがいいんだ?ほら、芸能人とか、それっぽいのとかあるじゃん」
「強いて言えばベッくんみたいな感じがいいかなって」
「だったらはじめからそう言ってくれよ髪切っちゃったよ」
「それもそれでかっこいいと思う」
「えっと、そうかな」
じゃあ、私の変化を当ててみてと心の中で念じてみる。
「おまえもその髪型いいよな。なんうまく説明できないけど」
「そこはいいよなで終わらせてよ」
「おう、その髪型似合ってるぞ」
「二度も言うな」
「あのー、お二人さん。これ以上は教室の温度があがるので、続きは廊下の方で」
いつもからかっている友達の方まで頬を赤らめている。教室内のからかう声から逃れるように廊下へ飛び出す。
「ばか、なんであんなところであんな話始めるのよ」
「いや、だって気がついてるなら素直に言ったほうがいいって」
気がついて言ってくれるのはいいけれど、それは場所を選んで欲しい。
そこから戻ってきた私に友達が質問してくる。
「それで結局好きなタイプは教えられたの」
「なんていうかうまく説明できないっていうか」
「今好きな人がタイプってことだね」
「そういうことになるのかな」
「それじゃあ説明できないね。いっそ告っちゃえばいいのに」
ここまでお膳立てしたのにと友達は彼も行動を移さないことに不満を言うが、それもそれでいいのかなと思ってしまう。
もしもう一度どんなタイプが好きかと言われたらもっと詳しく説明できるようにしたい。