古今集巻第十四 恋歌四 736、737番
右のおほいまうちぎみ、住まずなりにければ、かの昔おこせたりけるふみどもを、とりあつめて返すとて、よみておくりける
典侍藤原よるかの朝臣
たのめこし言の葉今はかへしてむわが身ふるればおきどころなし
返し
近院の右のおほいまうちぎみ
今はとてかへす言の葉ひろひおきておのがものからかたみとや見む
右大臣の源能有(みなもとよしあり)が通って来なくなったので、以前から書いてよこした手紙などを、取り集めて返すといって、詠んで送った歌
典侍藤原因香(ふじはらよるか)朝臣
頼みにして来た言の葉を今はお返ししましょう、わたしの身も古くなり、身の置きどころがありませんし、手紙も置くところがありません
返し
近院の右大臣源能有
今はといって返してくれた言の葉を拾い置いて、自分が書いたものでも、あなたとの仲の形見と思いましょう
近院の右大臣源能有(こんゐんの みぎの おほいまうちぎみ みなもとよしあり)は文徳天皇の子です。
藤原因香(ふじわらのよるか)は、典侍(ないしのすけ)、女官の次官です。
因香が、以前に仲良しだった右大臣からもらった手紙を返します。私も年老いたから、身の置き場がないし手紙の置き場もないと半ば冗談の歌を添えます。
右大臣も、自分が書いたものでも、あなたとの思い出になるだろう、と受け取って歌を返します。二人とも、この時およそ50歳ぐらいだと思います。互いに他意もなく穏やかに昔を懐かしんでいます。
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