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古今集巻第十七 雑歌上 874番

寛平御時、うへのさぶらひに侍りけるをのこども、かめをもたせて、きさいの宮の御方に、おほみきのおろしときこえに奉りたりけるを、蔵人どもわらひて、かめをおまへにもて出でて、ともかくもいはずになりにければ、つかひのかへりきて、さなむありつるといひければ、蔵人のなかにおくりける
としゆきの朝臣
玉だれのこがめやいづらこよろぎのいその波わけおきにいでにけり

寛平御時、上の侍に侍りける男共、瓶を持たせて、后の宮の御方に、大御酒の下ろしと聞こえに奉りけるを、蔵人共笑ひて、瓶を御前に持て出でて、ともかくも言はずになりにければ、使ひの帰へり来て、さなむ有りつると言ひければ、蔵人の中に送りける
敏行朝臣
玉簾れの小亀やいづら小余綾(こよろぎ)の磯の波分け沖に出でにけり

寛平御時、殿上の間にいた男達が、使いの者に瓶を持たせて、后の宮のところに、大御神のお下がりをとお願いしたところ、蔵人の女官達は笑って、瓶を后の御前に持って出て、そのまま何も言って来なくなった為、使いは帰って来て、そういう事があったと言ったので、女官達の中に送った歌
藤原敏行
玉すだれを掛けた美しい小亀のような瓶はどこに行ったか、小余綾(こよろぎ)の浦の磯の波を分けて沖に出ていったのか、お后の奥に行ったのか

詞書は、男達がお酒のお下がりがほしいと瓶を持たせたら、女官は笑って瓶を持って奥に入って戻って来ないので、歌を送ったと言うことです。
「大御酒」は、天皇がお飲みになるお酒、「下ろし」は、下げて頂戴すること、「聞こえ」は、お耳にいれること、言うこと、「に奉りける」は、~と申し上げた、お願いした、の意。「天皇がお飲みになるお酒を下げていただいて頂戴することをお后のお耳に入れることをお願いし」に行かせたという意味。

小余綾(こよろぎ)は、神奈川県の大磯の海岸のことだそうです。

歌は、小瓶と小亀(こがめ、おがめ)を掛けて、亀は「沖」に出ていったのか、小瓶は「奥」のお后の所に行ったままだ、と沖と奥で洒落ています。小余綾という地名を使ったのも、頭に「こ」が付くからかもしれません。

お后からは、この歌を良いと認めて、お酒が届いたことでしょう。

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ちのみゆき
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