カメラ専用機は生き残れるのか
なぜ背景がボケるのか知らなかったあの日
カメラのド素人が、一眼レフに憧れるポイントは、
「いかに被写体が高精細に撮影できるか」
などではなく、
「いかに被写体以外がボケるか」である。
カメラの技術進歩は言うまでもなく「高精細化」にあるのだが、求められるのはそれと同時に「ちゃんと映らない部分がいかにちゃんと写らないか」をなのだから、なんとも矛盾した話にも聞こえる。
私がコンデジしか知らなかった頃、プロ(やそれに準ずるアマチュア)の写真の背景がなぜボケているのか、理由が分からなかった。「ボケる」というのは「ちゃんと写らない」ことなのだから、どんなカメラでもできるはずなのに、なんで俺のカメラではどう撮ってもちゃんと写ってしまうのだ?と。
初めて手にした、「ちゃんと写るカメラ」ソニーRX-100
子供ができてどうしてもボケが撮りたくなった私は家電屋へ。各機種の紹介ボードを読んでいて、初めて知ったのである。
「受像センサーの小さいカメラはボケない」
衝撃。
そうだったのか。
いわゆる一眼レフを所有する意味はこれだったのね。
よし、一眼レフを買おう!
…といろいろ物色していたら目にとまったのが、ソニーのRX-100。初代モデルで価格は4万円前後。
何これ、めっちゃキレイ!
……ん?でも一眼レフじゃない。いわゆるコンパクト機だ。これ持っててもなんか「カメラが趣味」って感じじゃないぞ。
でもそもそも一眼レフなんか持ったって、俺レンズ交換なんかするのか?レンズいろいろ買う金なんかあるのか?それにこれ、余裕でポケットに入るやん!こんだけ小さくてこんだけ綺麗に撮れて一眼レフより安い!
…と購入したのだった。
背景が、ぼ、ボケている……これこれーー!!
もう嬉しくて、どこへ行くのもこのカメラをポケットに忍ばせて写真を撮りまくった。
マクロ撮影がしたくてAPS-C機のNEX5Tを購入
そしてある時、気づくのである。
なんで俺のカメラは小さい物を大きく写せないのだ?
なんで花弁に近づくと焦点が合わなくなるのだ?
バカがまたひとつ賢くなろうとしていた。
いろいろ調べて分かった。
ま、マクロだと……!?
そうか、花にとまるミツバチを綺麗に撮るにはマクロレンズなるものが必要なのか。じゃあマクロレンズを買って来ればいいわけやね……はっ、俺のカメラ、レンズ交換できへんやん!!!
居ても立っても居られなくなった私は家電屋へ。
いよいよ本当に一眼レフを買う日がやってきた。
カメラの2巨頭、キャノンとニコン。両方を手に取った後に触れたのはソニー製の一眼レフ。
ちょっと小さいし、軽い!
ミラーレスだと!?聞いたことがあるが、基本的に同レベルの画質でもカメラ本体がこれほど小さくなるのか。肩凝り持ちのオレ様にはこっちだ!前のもソニーだったし!!
…と購入したのがNEX5T。
これこれーー!!
これでも飽き足らず、
「ソニーのAPS-CミラーレスってワシはOLか!カメラ女子か!男ならフルサイズ!!……でもレンズ資産あるから、やっぱりソニーのしないと…」
と、結局そさらにフルサイズ機であるα7IIを買い足し、ソニー漬けになってしまったのであった。
↑(注)ちゃんとレンズにはSIGMA製E 30㎜ F2.8使ってます。
高いカメラを買う意味
さて、カメラを手に入れる動機というのは人それぞれだろうと思うが、やはり子を持つ親としては、日々不可逆的に変化していく子供という被写体を、今のうちに撮っておきたいというのが大きいかと思う。私もそうだった。
しかし、ひとたびカメラオーナーとなると、当然ながらその被写体は子供とは限らない。どこに行くにもカメラを携帯し、片っ端から撮りたくなる。
カメラの楽しみ方とはまさにこういうことで、ちょっとしたお出かけからがっつり旅行まで、写真撮影という非常に大きなオプションが追加されることになるのだ。
スマホカメラの驚くべき進歩
しかしこの数年が事情が変わりつつある。
スマホのカメラ機能が物凄い進歩を遂げており、誰もがすごい画質で写真を撮れてしまう時代が来たのだ。
私が1年ちょっと前に買い替えたギャラクシーS9も、当時は業界最高レベルの画質で、使ってみて驚いたものである。
正直、一眼レフを持ち歩こうというモチベーションは低くなった。
市場を見ても、かなり前からコンデジは大きな危機に瀕している。スマホでこれだけ綺麗な写真が撮れるのに、わざわざ1~2万円レベルのコンデジを持ち歩いてバッグから出すなんてことを誰もしなくなったのだ。
そしてここ数年、スマホレベルのディスプレイではフルサイズと比べても見劣りしない画質に迫ってきた。
それどころか、素人がヘタに設定いじって一眼レフで撮るより、何も考えずにスマホでパシャっとやってしまった方が綺麗に撮れてしまうことの方が多い。
ボケなんて後からソフトウェアで加工もできる。
ではカメラ専用機の生きる道は?
じゃあカメラ専用機はこのまま絶滅に向かうのかというと、そうではない。市場は小さくなっていくだろうが、使う意義がある以上使う人はいる。
その使う意義とは、まず印刷した時の品質である。スマホで見たりL判で印刷したレベルでは、もはやハイスペックなスマホと一眼レフにさほどの差はないように見える。が、いざ大画面テレビにフルサイズで表示したり、A4で印刷したりする場合、「センサーサイズは正義!」と思い知らされることになる。
他人のインスタグラムを見て、スマホで撮ったであろうその写真の品質には驚かされるが、所詮は数百x数百ドットのレベルだ。こういう使い方の需要が非常に大きいから、相対的にカメラ専用機の存在感は薄れてしまうのだが、出力サイズを大きくするとその違いも大きくなるし、小さなサイズであってもスマホで撮った写真はまだどこかわざとらしさが滲み出てしまうところがある。
というわけで、ここぞという時に一眼レフでしか撮れない写真というのはあるし、まだしばらく私は「趣味はカメラ」と言い続けるのである。