岩波少年文庫を全部読む。(97)『あしながおじさん』が書かれなかったら『長くつ下のピッピ』もなかった ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』
ジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』(1912。谷口由美子訳、岩波少年文庫)は書簡体の「寄宿舎小説」です。
服も名前も他人のお下がり
ジェルーシャ・アボットは、むかしながらの(←「人権意識がアップデートされてない」の婉曲表現)孤児院で育ちました。
そこの児童は全員、人のお下がり(と言えば聞こえがいいですが、ようするに廃棄物)を着ています。ヒロインなど、名前すらお下がりなのです。
ジェルーシャという名前ですら寮母が墓石から選んだものです。変な名前なので気に喰わず、〈ジュディ〉と勝手に名乗るくらいです。そして苗字は電話帳のアルファベット順の最初のほうからテキトーに選んだものだったという……。
ジュディ(自称)は施設の寮で働いていますが、17歳で滞在年限が切れます。この先どうしたものか。
『あしながおじさん』と『長くつ下のピッピ』の意外なつながり
ジュディはある夕方、月例視察から帰る施設評議員のひとりの、長身痩躯のシルエットが、車のヘッドライトに照らされて、daddy-long-legsのように見えました。
じつにうまい場面なのですが、さてdaddy-long-legs(daddy longlegs)とはなにか。直訳すると「あしながパパ」となりますが、……
この名前で呼ばれる生きものには幽霊蜘蛛、座頭虫、ががんぼがあります。なんにせよ脚の細長い節足動物というわけです。
本書では〈あしながグモ〉(12頁)と訳しています。99頁には〈ほんもののあしながグモ〉("A real true Daddy-Long-Legs!")が登場し、その絵が描いてあります。
この絵から、座頭虫でもががんぼでもなく、蜘蛛と解釈するのが正しいとわかります。
ちなみにオーストラリアのトリガープランツや蘭、メキシコの蘭にもdaddy longlegsと呼ばれる植物があるそうですが、こっちは違うでしょう。
じつは『あしながおじさん』が書かれなかったら、『長くつ下のピッピ』(1945。大塚勇三訳、岩波少年文庫)も書かれず、アストリッド・リンドグレーンはブレイクしなかったかもしれません。
それというのも、
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