岩波少年文庫を全部読む。(61)親子ってなんだ?最低で最高の「夏休み小説」 エレイン・ローブル・カニグズバーグ『800番への旅』
また母子家庭のひとり息子ですか?
レインボー・マクシミリアン・スタッブスは12歳。通称はボー、あるいはマックス。ペンシルヴェニア州に住む母子家庭のひとり息子。
……と書いて、あれっと思ったんですが、えーと、前回のケストナーの『点子ちゃんとアントン』のアントンも「母子家庭のひとり息子」でしたよね?
はい。そうでした。
ケストナー『点子ちゃんとアントン』(1931。池田香代子訳)
→カニグズバーグ『800番への旅』(1982。金原瑞人+小島希里訳)
という流れは、僕が恣意的に作ったんではなくて、岩波少年文庫の現行の通し番号がそれぞれ60番と61番だったという、ただそれだけの話なんです。
この連載は基本的に、岩波少年文庫の通し番号順に進めています。疑うんなら岩波少年文庫編集部を疑ってください。
母セーラ・J(通称サリー)はハイクラスなプレップスクール(名門大学進学のための寄宿制中高一貫校)であるフォートナム校の構内に住みこんで、学校の仕事をこなしているらしい。理事会でお茶を出すのも仕事。
語り手兼主人公の〈ぼく〉マックスも、秋にはそこの中等部に入学することになっている。
新パパの名前が出オチ
母は理事会で、理事のフランチェスコ・ヒューゴ・マラテスタ1世という定年間近の男に見初められ、結婚することになりました。
もう名前だけで出オチのこの男、〈寝室が六つに、浴室が四つあって、使用人や庭師がいて〉(14頁)というような屋敷に住む富裕層です。マックスは継父の豪邸に引っ越すのが楽しみです。新生活はすべてが一流になる予定なんです。
母は結婚するのは二度目ですが、新婚旅行ははじめて。
なので、息子の〈ぼく〉を、別れた前夫ウッドロー(通称ウッディ)のもとに追いやります。秋に継父の金で入学する予定の高級進学校のエンブレムが入った制服ブレザーを着せて。
本書は、新しい父を得たばかりの〈ぼく〉が、前の父と過ごすユルい夏休みを物語ります。
旧パパはレイドバックしたヒッピースタイル
このスノッブな母子と対照的に父ウッディは、全米本土のショッピングモールやフェアやコンヴェンションに出演する旅回りの駱駝使いです。
俗世の野心がなく、自由奔放なヒッピータイプ。相棒である駱駝のアーメッドとは名コンビ。
タコススタンドを経営する肝っ玉母さんロジータとその子どもたちに代表される、お祭りの常連に好かれるタイプだから、この商売をやれている。
(「お祭りの常連」のみなさんが全員「いい人」に描かれているのは、これはこれであるあるというかステレオタイプなんですが、しょうがないよね)
〈ぼく〉は父のモービルホーム(トレイラーハウス)にも駱駝にも興味なし。鼻持ちならない進学校の制服を自分の頭脳と世間での地位の証だと信じています。そのスノッブな息子にも、父は寛容でした。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?