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岩波少年文庫を全部読む。(129)善行を施したい子どもは残酷にも、困ってる人がいると「ラッキー!」と思う アストリッド・リンドグレーン『やかまし村の春・夏・秋・冬』

アストリッド・リンドグレーン『やかまし村の春・夏・秋・冬』(1949。大塚勇三訳、岩波少年文庫)は、1947年から1952年にかけて刊行された《やかまし村》トリロジーの第2作です。

前回書いたように、本シリーズは「3冊で1作品」の趣があります。

前作では夏から晩秋にかけての話でした。今作はクリスマスから翌年の秋までのお話です。
前回はシリーズ全体の設定について話しました。今回は主要キャラについてお話しますね。

やかまし村のみなさん(中屋敷)

中屋敷に住むリーサは、本シリーズの語り手です。シリーズ開始時に7歳。
子どもたち全員で行動するときもありますけど、そうでないときには、後出の北屋敷のブリッタとアンナの姉妹、とくにアンナといっしょに遊ぶ話が報告されています。
読んでるとリーサは、ふたりの兄にたいして、やや含むところがありそうですね。いっしょに遊ぶのは楽しいけど、兄たちはリーサにたいして、意地悪したりからかったりすることもあるんですから。秘密だって守れないし……

リーサはやかまし村での暮らしに大満足で、ここに住んでない人たちってかわいそうね、くらいに思ってます。
これって、現代都市で仕事に追われている作者の願望の投影なのでしょうか。リンドグレーンは多作な人気作家であると同時に、編集者から編集部顧問となって新人を発掘し、また翻訳すべき外国作品の選定にもかかわっていました。
このあと最終篇『やかまし村はいつもにぎやか』(1952。大塚勇三訳、岩波少年文庫)で、動物とのふれあいをつうじて成長するリーサの姿が見られます。

リーサの長兄ラッセは9歳。弟ボッセや南屋敷のひとりっ子(本書の後半でそうでなくなりますが)オーレと同行することが多く、この年ごろの男子らしく、女子にはそっけないというか、女子を排除しようとする傾向が見られます。
だれといても、だいたい子どもたちのリーダー格をつとめます。みんなでなにをするのかを決めるのも、ラッセがいるときにはラッセが決めることが多いようです。もちろん、ほかの子のいい着想を採用することもよくあります。

突拍子もないことを思いついて人をからかうこと、とくに女子をビビらせることが好きだけど、スベることもままあります。いばりんぼで無鉄砲な部分があり、そのせいでみんなが危ない目にあうことも。また女子にたいしてかなり強気です。
また、ラッセの話には不正確な知識が多いのですが、どれくらい自分が間違ったことを言ってるのか、自分が言ってることが嘘なのか間違いなのか、肝腎なところを自覚していないように見えるので要注意です。

ところで以前、《ピッピ》3部作の人種差別的な表現や展開について書きました。

本書『やかまし村の春・夏・秋・冬』にも、ラッセの子どもらしいおふざけに、人種差別的なテイストが無邪気にあらわれています。図画の授業(学校については後述)で、画用紙を一面まっ黒に塗って、

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