岩波少年文庫を全部読む。(135)子ども心の切実な表現がたどった、悲しい歴史の現実 マリーエ・ハムスン『牛追いの冬』
こんどは秋から冬へ
マリーエ・ハムスン(訳書表記はマリー・ハムズン)の長篇小説『牛追いの冬』(1924。メイダ・キャステラン・ダーントンの英訳からの重訳。石井桃子訳、岩波少年文庫)は、『小さい牛追い』(石井桃子訳、岩波少年文庫)の続篇であり、『村の子どもたち』5部作の第2部です。
石井桃子訳の底本となった英訳『ノルウェーの農場』は、前作『小さい牛追い』との2in1でした。日本語訳では、ノルウェー語版原書と同じように個別作品として刊行しています。
ランゲリュード農場の4兄妹オーラ、エイナール、インゲリド、マルタの春と夏を描いた前作に続き、本書では秋から冬にかけての暮らしが描かれます。ラルスやヤコブといった大人たちや子どもたちとの交流も、動物たちとのおつきあいも、静かに物語られます。
農場のお手伝いをしたり、学校で英語を勉強したり、ボーイスカウト活動に参加したり、クリスマスに仮装(←政治的に正しくないやつです)したり。生き生きとした語り口で子どもたちの生活が報告されます。
この作品の力のなかに石井桃子さんの訳文の力が占める部分は大きいと思われます。
子ども心の切実な記録
前回僕は、前作について、〈作者は、子どもというものをたいへんよく知っているようです〉と書きました。そう感じさせた箇所の一例に、今回少し触れたいと思います。
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