岩波少年文庫を全部読む。(138)ケストナー描く女の戦い、そして美空ひばり エーリヒ・ケストナー『ふたりのロッテ』
この連載で毎度毎度熱く語ってしまうエーリヒ・ケストナー作品。『ふたりのロッテ』(1949。池田香代子訳、岩波少年文庫)は戦後の出版ですが、創案は映画のシノプシスとして、ナチス時代の1942年に書かれていたそうです。
ドイツ語圏の3つの国
この小説は戦後に刊行されたのですが、作中時間はなんとなく、ナチス政権獲得(1933)の直前のようにも見えます。どちらなんでしょうね。
戦前の一連の作品に見られた、長くて饒舌で自己言及的な序章こそありませんが、〈みんなはゼービュールを知っているかな? 山の中にあるんだけど〉(11頁)とフレンドリーに語り出すケストナー節は健在です。
ゼービュールはスイスの森の村。サマースクール(林間学校)が開かれています。ヒロインのルイーゼ・パルフィーは、ウィーンから参加しました。
活発で向こうっ気の強いルイーゼは、作曲家でオペラ座常任指揮者のシングルファーザー、ルートヴィヒに育てられました。
サマースクールに、ミュンヘンからロッテ・ケルナーという少女が到着しました。グラフ誌「ミュンヘン画報」の記者をつとめる母ルイーゼロッテとふたりぐらしのロッテは、控えめで礼儀正しい女の子です。
物語のオーストリア人の少女とドイツ人(もし戦後なら西ドイツ人)の少女とが、スイスの森のサマースクールで出会うところから始まります。オーストリア、ドイツ、スイス。ドイツ語圏の3つの国の子どもたちは、このように自由に行き来していたのでしょうか。
ふたりは瓜ふたつ、もちろんそれにはわけがありました。
20世紀版『王子と乞食』
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