岩波少年文庫を全部読む。(56) 陰キャ中学生男女コンビ、村上春樹的ミッションに挑戦する エレイン・ローブル・カニグズバーグ『エリコの丘から』
11歳男女コンビと女優霊からのミッション
エレイン・ローブル・カニグズバーグの『エリコの丘から』(1986。金原瑞人+小島希里訳、岩波少年文庫)は、簡単に言うと、11歳の男女二人の子どもたちが、地下の異世界で暮らす女優の幽霊からいくつかのミッションを下される話です。
そのミッション遂行中は、一時的に透明人間になって、なおかつ時空を越えて移動することができるようになるという、そういうお話です。
米国では、11歳ってのが中学1年生になる齢らしいです。
あのカニグズバーグの、ここですでにとりあげた『クローディアの秘密』(1967。松永ふみ子訳、岩波少年文庫)、それから『ティーパーティーの謎』(1996。金原+小島訳、同前)に比べると、これはずいぶんファンタジー的な、あるいはホラー的な要素が入ってるなあと思いました。
この作家はこういうファンタジー的なものも書くんだなと、ちょっとびっくりしたわけですね。
そういう設定はすごく魅力なんです。
いっぽう、タルーラという、いまは亡き女優ですね。
幽霊になって主人公ふたりにミッションを要求するからといって、べつになにか日本の、たとえば夢幻能に出てくるような浮かばれない、無念を抱えたような感じはいっさいありません。
地下の国(?)で暮らしているんですけど、非常に優雅で、なんだかまるでタワマン最上階のものすごい豪華なペントハウスで暮らしているかのような、ゴージャスな暮らしをしています。
そんな余裕綽々の元女優の、おばちゃんだかおばあちゃんだかですね。これが、かなり高飛車というか上から目線で、このふたりの子どもにいくつかのミッションを与えていく、と。
村上春樹ふう巻きこまれ型主人公
このふたりがぶつくさ言いながら、村上春樹の巻きこまれ型主人公のように、なんだかんだミッションをこなしていく。「やれやれ」と言ってたかどうか忘れましたが。
そのうちに、語り手は女の子のほうなんですが、とくにこの女の子にかんしては、思春期特有のアイデンティティの迷いから、だんだん落ち着いていって、自分の行く先が見えてくる、肚が据わってくる、というような成長の物語になってます。
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