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岩波少年文庫を全部読む。(93)『スタンド・バイ・ミー』+『八つ墓村』 マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』

14年ぶりに、違う人の訳でマーク・トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』(1876)を読みました。
以前読んだのは大久保博訳、角川文庫《トウェイン完訳コレクション》、今回読んだのは石井桃子訳、岩波少年文庫(上下巻)です。

作者序によると1840年前後という設定らしいですね。南北戦争以前の風俗誌として読めます。

少年たちの経済小説

1840年代、ミズーリ州を舞台とする少年小説です。
ミシシッピ沿岸セント・ピーターズバーグという(架空の)町で、孤児のトマス・ソーヤーは異母弟のシッド(シド)とともに、ポリーおばさんに育てられています。

遊び好きのトムは学校をサボって泳ぎに行ったことが原因で、翌土曜日には罰として、おばさんの塀を白く塗る作業を言いつけられますが、近所の子どもたちを言葉巧みにノセて苦役を(光栄な作業と見せかけて)押しつけ、自分はちょっとした小物を彼らから巻き上げます。

トムはこれをさらに、他の子どもたちが日曜学校で得た聖句暗誦のご褒美クーポン(青札、黄札)と交換し、聖句暗誦がまったく苦手な落第生であるにもかかわらず、それらのクーポンを牧師に渡し、まんまと賞品として聖書を手に入れます。
ここまでの流れは、谷崎潤一郎「小さな王国」を思わせる「経済小説」としてのおもしろさがあります。

早すぎた失恋と殺人現場目撃

トムは転校生で判事の娘であるベッキー・サッチャーとの恋に邁進します。でも、なんとなくカノジョふうな存在であったエイミー・ローレンスとの仲がバレて、ベッキーにふられてしまいます。

少年たちが憧れるアウトロー的存在の浮浪児ホームレスハックルベリー・"ハック"・フィンとともに、トムは迷信ぽい儀式を執行する目的で真夜中に墓地に潜入します。
折しも墓地では、ロビンソン医師、マフ・ポッター、インジャン・ジョーの3人が墓暴きのまっさいちゅう。ロビンソン医師とインジャン・ジョーは諍いを起こし、ポッターは泥酔して失神。インジャン・ジョーは勢いで医師を殺し、意識朦朧のポッターに殺人の濡れ衣を着せます。

トムとハックは一部始終を目撃していました。インジャン・ジョーに丸めこまれたポッターは、酔余の殺人の咎で刑務所に入れられてしまいました。
このサスペンス的展開はなかなかにアメリカンゴシックな味わいで展開しますが、それが伏線として聞いてくるのは後半です。

『スタンド・バイ・ミー』的な少年たちの逃避行

トムは学校にうんざりして、ハックと友人のジョー・ハーパーの3人でミシシッピ川の川中島に乗りこみ、少年海賊団としてワイルドライフを始めます。
スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』の原作となった小説を書いたとき、きっとこういった世界を想定していたのだと思います。

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