岩波少年文庫を全部読む。(85)借 アストリッド・リンドグレーン『はるかな国の兄弟』
またもや異世界転生冒険ファンタジー
アストリッド・リンドグレーンの『はるかな国の兄弟』(1973。大塚勇三訳、岩波少年文庫)は異世界転生冒険ファンタジーです。
語り手の〈ぼく〉、9歳のカール・レヨン(レヨンはライオンの意味)は重い病気、おそらく結核で、死が近い。大好きな兄ヨナタン(13歳)は、〈ぼく〉を安心させるために、人は来世でナンギヤラという世界に転生して冒険するのだと物語ります。
あるとき家が火事になり、ヨナタンは弟を背負って窓から飛び降り、〈ナンギヤラで、また会おう!〉(26頁)と言い残して死んでしまいます。
〈ぼく〉もその2か月後に亡くなり、ナンギヤラのサクラ谷に転生しました。そして桜咲き満ちる騎士屋敷で、2か月先に転生していた兄と再会します。
ふたりはその世界ではレヨンではなく、レヨンイェッタ兄弟でした。
LejonhjärtaとはLionheart、獅子心=勇猛心のことです。
サクラ谷の人々と悪の支配者テンギル
ふたりはグリムとフィアラルという馬を持ちます。またカールは農婦ソフィア、陽気な宿屋の亭主ヨッシ、気難しい狩人ヒューベルトなど、界隈の人々に出会います。
山のむこうの野バラ谷は、邪悪な片目の支配者テンギルが占領しており、鳩で通信するしかない状態。テンギルは〈大昔山〉のカルマニヤカから配下のものたちを連れて降りてきて、野バラ谷の住民を奴隷として捕捉しています。
テンギルが無敵なのは、カトラなるものを味方につけているからだと、兄はに言うのですが、カトラがどういう奴なのか、兄は教えようとしません。
ソフィアはサクラ谷の住民のリーダーで、野バラ谷の抵抗勢力を支援しています。サクラ谷にもテンギルと密かに通じている裏切り者はいるらしい。ひょっとしてあのヒューベルトだろうか?
冒険ファンタジーのモティーフがてんこ盛り
野バラ谷抵抗勢力の指導者オルヴァルが逮捕され、〈カトラの洞〉に投獄されたらしい。兄は密命を帯びて野バラ谷を目指します。カールは数日間、寂しさに耐えていましたが、我慢できずに自分もとうとう野バラ谷を目指して山中に入ります。
ある夜、洞窟に潜伏中、テンギルの部下ふたりがスパイと連絡を取る場面を目撃してしまいます。そのスパイとは──
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